「良い話風にまとめてるけど」わたのまち、応答セヨ Scottさんの映画レビュー(感想・評価)
良い話風にまとめてるけど
フォーマットはプロジェクトXだね。
過去のプロジェクトじゃなくて、進行形のプロジェクトを見てく感じで。
「街の繊維産業に光を当てる映画を作ってほしい」って言うことで、蒲郡市に、《進め!電波少年》の土屋さんが呼ばれていったのかな。
全体的にテレビのドキュメンタリーという感じでオープニングから安っぽい感じはしたな。
これ蒲郡市からは『三河木綿で服を作って、東京ガールズコレクション(TGC)に出るから、その様子をドキュメンタリーにまとめて欲しい』って依頼だったんじゃないかな。
でも土屋さんたちは蒲郡市のTGCプロジェクトを傍観してんのね。それでTGCプロジェクトは、まあ『地方の人が地域再生とか言うとかんな感じだよね』って終わり方してんの。
TGCプロジェクトを、本気でやってる感じはなかったしね。
会合に集まる人たちの服装も『あなたたち、ファッションについて語る気は、そんなにないですよね』って感じだった。
「どうも、このプロジェクト……」と言ってる人たちも、本気で旗を振って動かそうというわけでもなく。
ここもね、土屋さんたちが人脈使って「良いデザイナー紹介しますよ」ってやれば、大成功風にもってくことはできたはずなの。でもやらなかった。
土屋さんたちは「本気の人が必要だ」ってことで、蒲郡市で本気でやってる人を探していって、わたを種から育てて紡ぐテキスタイルデザイナーの鈴木さんに会うのね。それで一緒にやってこうっていう。
それで土屋さんが、コスチュームデザイナーのタニクミコさんを鈴木さんに紹介して「ロンドンデザインフェスティバルで三河木綿をアピールしましょう」ってやるのね。
これに森菊株式会社も「三河木綿を復刻させたい」ってのってくる。
森菊はTGCプロジェクトにも人を出していたし、三河木綿どうするかを真剣に考えてたっぽいんだよね。
それでロンドンいって、展示もパフォーマンスもやって、『三河木綿認められたぜ! 奇跡だ! やったー!」っていって終わりになるの。
なんか良い話風だけどさ。
まず、蒲郡市が考えたTGCプロジェクトはそんな盛り上がらないの。
それで土屋さんが鈴木さんとタニクミコさんを会わせたロンドンフェスティバルは盛り上がるのね。
これ、蒲郡市にいて問題意識を持っていた鈴木さんと、森菊の社長の存在がまず大事なんだよね。
そして地元の博物館が、過去の三河木綿で作られた三河縞のサンプル帳を保管してたっていうのも大事。
地元ですごく頑張っている人たちがいて、そこに全国的に一流と目される人が入って、その二つが協力してはじめて良いプロジェクトになってんだよね。
地域再生って難しいなって思った。地元で頑張っている人たちを、地元の人は見つけづらいんだよね。森菊の社長も「博物館にサンプル帳があるっていうし」って、つい最近知ったみたいなこと言ってるんだけど、いや知っとけよ地元だろって感じではあんの。
そしてロンドンフェスティバルは大成功!の雰囲気になってるけど、これを大成功と描写して良いなら、TCGだって大成功の描写で良いでしょ。
成功したかもしれないのは、森菊作成の復刻した三河縞なんだよね。行政が主導したプロジェクトじゃなくて、企業が生き残りをかけて挑んだものが、結局、強い。TCGプロジェクトで人を集めても、遊びの延長になってしまう。
なんか、地域再生って難しいなと思ったの。
どれだけ地方で知恵を絞っても、最後に土屋さんみたいな人をつかまえて知恵と人脈を借りないといけない。その一流の人に適切な伝手がないと難しいね。
そうまでしてうまくいっても、一過性の部分が大きいし。
そして、この映画の「なんだそりゃ」な点というか、なんというかなんだけど。
三河木綿のスカーフを表参道で売ってる女の人が出てくるのね。それで、その人のインタビューがあるんだけど「安さでは中国製品にはかなわない。誰でもできる織りでやったら駄目だ。ここじゃなきゃできないっていう織りじゃないと」って言うの。
答はもう出てるんだよね。ここにある。みんなこれを真似したら良いじゃん。
鈴木さんが作った渾身の一枚も、森菊社長が作った復刻も「ここじゃなきゃできないっていう織り」だよね。答は地元にもうあるのに、見つけられないんだな。
あと鈴木さんはテキスタイルデザイナー、森菊で頑張るのもデザインする若い女性社員、表参道で売る人もデザイン重視と、肝はデザインというのが面白かった。素材で勝負できないなら、そこだよね。
あと良かったのはね。森菊の社長が「博物館にサンプル帳があるっていうし、これの続きを作った方が」って言うの。単なる復刻じゃなくて、続きなんだよね。これがすごくいいなと思った。
ファッショントレンドは繰り返しても、少しずつどこかが変わるっていうし、単に復刻だけじゃなくて、令和ならではの何かが加わると良いよね。
温故知新って、だいたい故きを温ねたところでノスタルジーで終わっちゃうんだけど、そこから一歩進めて新しきを知れるといいな。
一見、良い話風だけど、そこまでではないんじゃないのと思ったけど、そんな穿った観かたしないで「みんな、おめでとう!」と観た方が楽しいかもね。
でも地域再生については何かを考えるから、地元がある人は、観ると良いと思うよ。
映画チケットがいつでも1,500円!
詳細は遷移先をご確認ください。