劇場公開日 2025年7月4日

キャンドルスティック : インタビュー

2025年7月3日更新

阿部寛×菜々緒 エンタメ界にとってAIは希望か、脅威か? 「結局演じるのは人間」「人間の仕事が奪われることも」

映画のカギとなるAI(人工知能)に対する未来予想図を語った
映画のカギとなるAI(人工知能)に対する未来予想図を語った

阿部寛菜々緒が初共演する日台共同製作映画「キャンドルスティック」は、日本・台湾・イラン・ハワイなど世界6都市を舞台に、主人公の元天才ハッカー・野原(阿部)が、FXトレーダーの杏子(菜々緒)と協力して「金融市場の番人」である難攻不落のAIを騙し、FX市場で大金を手に入れることを目論むマネーサスペンスだ。

タイトルは、金融商品の価格変動を視覚的に表した価格チャートのこと。リスクを伴うマネーゲームの魔に取りつかれた現代のアウトローたちが、ワールドワイドに“騙し騙され”のスリリングな駆け引きを繰り広げる。そんな国際色豊かな本作に飛び込んだ阿部と菜々緒が、役づくりや初共演の感想、映画のカギとなるAI(人工知能)に対する未来予想図を語ってくれた。エンタメ界にとって、AIは希望か、それとも脅威なのか?(取材・文/内田涼、撮影/間庭裕基


■初共演の阿部と菜々緒 “孤独”という共通点が信頼関係を築き上げた

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阿部が演じる主人公の野原は、ハッキングによる株価操作の罪で刑務所に収監されていた元天才ハッカーという役どころだ。近年の主演映画でも、音楽隊に異動になった刑事(「異動辞令は音楽隊!」)、ラジオ局に左遷された元キャスター(「ショウタイムセブン」)といった、逆境から這い上がる主人公を熱演している。人生の大逆転をリアルに、そして確かな説得力をもって体現できる俳優は、阿部をおいてほかにいない。

阿部「台本を読んだとき、野原という役は、何を考えているのかつかみどころがなく、謎めいた存在に映りました。けれども、彼が抱えている深い孤独には強く惹かれるものがありました。以前、100年間誰にも解けなかった難問を解いた天才数学者のドキュメンタリーを観たことがあります。彼はその1週間後、忽然と姿を消しました。その孤独の在り方が強く印象に残っていて、今回、野原を演じる上でひとつのヒントになった気がします」

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一方、菜々緒が演じる杏子は、野原との出会いを経て、金融の世界に足を踏み入れるFXトレーダーという役どころ。野原と杏子を引き寄せ合うのが、数字に色を感じるという特殊な能力“共感覚”だ。

「共感覚を持つ人物を演じるのは初めてで、不安や緊張もありました」と振り返る菜々緒は、知人が実際に共感覚の持ち主だといい、その知人から聞く苦労や大変さを役づくりのヒントにしたと明かす。

菜々緒「目には見えない能力を持つということは、ある意味ですごく孤独で。それは、阿部さん演じる野原も同じだからこそ、ふたりは言葉を交わさずとも特別な信頼関係を築けたんだと思います。そういった絆を、自分に落とし込んで杏子を演じました」

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そんな菜々緒との初共演について、阿部は「成長し続ける俳優とご一緒できたことで、自分自身の作品への関わり方も自然と見えてきて、非常に刺激的で楽しい経験だった」と語る。

この言葉に、菜々緒は「阿部さんは英語のセリフもたくさんあって大変なのに、私や現場のスタッフさんにも気さくに話しかけてくださったりして」と返す。自身はドラマ「オー!マイ・ボス!恋は別冊で」で英語のスピーチを披露したこともあり、「あのときは、自分のことでいっぱいいっぱいで……。ですから、余計に阿部さんの心づかいが嬉しくて。大きな背中を見せていただきました」と、感謝を伝えた。


■異色の新人監督を起用 「黙っていても、いろんな刺激が飛び込んできた」(阿部)

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「新しいことに挑戦したい。そんな気持ちが今も常にあります」と語る阿部にとって、FXを題材に、さまざまな言語が飛び交う本作はうってつけの企画だった。何より、広告やMVの分野で活躍し、本作が映画初監督作となる米倉強太は、「MEN'S NON-NO」の元専属モデルで、阿部とは先輩後輩という異色の経歴の持ち主だ。

阿部「米倉強太という新進気鋭の監督の存在も、今回チャレンジしてみたいと思った大きなきっかけでしたね。新鮮な気持ちで、フルで力をぶつけてくれるだろうし、今までの監督の経歴から非常に芸術的なアプローチをしてくるだろうなって。実際、期待通りだったし、どんな作品を目指しているのか、はっきりと見える現場だった。黙っていても、いろんな刺激が飛び込んできた」

菜々緒も「私から見ていても、阿部さんと監督はかなり早いタイミングで、野原というキャラクターについて、イメージが一致しているんだなと感じました。撮影が始まると、わざわざ意見を交わさずとも、同じゴールを見つめていらっしゃるように、私の目には映りました」と、現場で垣間見た両名の相性の良さを明かしてくれた。

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撮影は2024年5月~9月まで、日本(ハワイパートも日本で撮影)、台湾、イランとそれぞれのパートに分けて撮影。各国の俳優陣は液晶モニター上で絡むオンラインシーンのリモート演技が多く、実際に顔を合わせることは少ないという特殊な撮影だった。

阿部「だから、脚本を読んだ段階では、どんな映画になるのか想像が難しかった。映画のなかに、3つの顔(ストーリー)がある台本で……。ところが完成した作品を見ると、見事に1本の映画になっていて、これは素晴らしいなと。合作映画の新しい形でもある作品だと思いましたね」


■AIが及ぼす影響は? 「人間にしか生み出せない価値を、改めて考える時期」(菜々緒

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国境を超えて、さまざまな思惑が交錯するなか、「AIを騙す」ことを目的に、登場人物たちが火花を散らす本作。近年、驚異的なスピードで進化を遂げるAIは、日々身近な存在となり、エンタテインメントの世界にもその影響が波及し始めている。23年にハリウッドで起こった脚本家と俳優による長期間のストライキでは、「AIの脅威から、いかに組合員を守るか」が大きな争点となったことも記憶に新しい。

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例えば、AIのさらなる発展によって、俳優が死後に復活し“最新作”が製作されることが、技術的には可能だといわれている。もちろん、倫理的な議論が求められるが、そんな未来の到来について、人気俳優である阿部と菜々緒は、どのように感じているのだろうか?

阿部「AIが作り出した自分にはほとんど何の価値もないですよね。昔の有名な俳優さんがAIで復活した作品を見ても、おそらく別人にしか見えない。今はCGが全盛の時代だけど、昔の黒澤映画にはアクションでやっぱり勝てない。それと同じじゃないですかね。まぁ技術的には面白そうだなと僕も理工系なので思いますが。ただ脚本に関してはAIを補助的に使うのはありだと思います。有名な芸術家もおおまかな構成などはAIに頼っている人もいるようなので。結局演じるのは人間ですから」

菜々緒「ただ、AIが作るフェイクニュースの映像なんてものを目にすると、怖いなって。先日、ロサンゼルスに行ったんですが、もう普通に無人タクシーが走っていて、SF映画の世界みたいだなと。いずれ、人間の仕事が奪われることも、なきにしもあらず……ですよね。人間にしか生み出せない価値を、改めて考える時期なのかもしれませんね」

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そんなふたりが演じる野原&杏子のコンビは、果たしてAIに勝利できるのか――? AIにも予測不可能なクライマックスに、ぜひ注目してほしい。

キャンドルスティック」は、7月4日に東京・新宿バルト9ほか全国で公開。

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