「満たされた。」DREAMS JYARIさんの映画レビュー(感想・評価)
満たされた。
bunkamuraシネマにて、一足先に「DREAMS」を鑑賞。
もう満たされて溶けている……。最も好きなラブストーリーが塗り替わるかもしれない、というほどの満たされ方だった。本当に終始「恋」の話だったな。自分が恋愛好きだったことを思い出した。
最初は手記が朗読される形式で進むから驚いたんだけど、やっぱりああいうエリック・ロメール的な奇跡で終わらせられると、人生をもう少し信じてみたくなるのよね。あれこそが映画だよ、本当。USBっていうめちゃくちゃ小さくて現実的なアイテムなんだけど、とても上手く使ってた。しかも、そこにセクシャリティの問題も当て込んでいるから、余計に快感だった。
祖母が階段を昇って行くシーンは、もう泣いてたよ。なんで泣けたか分からないけど、あの迫力に、あの年輪に、あの情念に、胸動かされた。もう落ち込んだら、あのシーンみて情熱を燃やせそう。ああやって生きて来たんだよな。
この映画は三世代の親子の話でもあるのが興味深い。祖父も夫も出てこないのは、ややずるいなと感じるんだけど、心地よさも感じてしまっているから、責めようがない。
あの恋の始まりと、自己中心的な世界との向き合い方、恋煩いを経て、相手を責めるようになり、そして恋は終わって行き、また次の恋へ。そんな恋のすべてを詰め込んだ、本当に「DREAMS」な映画だった。つい笑っちゃうほどの主人公の恋する様子と、本当にあるかもしれないという恋への期待、そして二人の関係性から生まれる緊迫感。すべてが絶妙なバランスで成立していた。
主人公は、初めての恋でそれが同性愛だとも思っていないし、同性愛だからといってそこに忌避感を抱いているわけではない。ただただ、恋が怖くて、恋によって自分の世界がこんなにも変わってしまう事が怖くて、それと同時にたのしくて仕方ないのだと思う。恋ってそうなのよ。自分でしてると恐ろしく心揺らされるんだけど、傍から見たら本当に滑稽なのよね。久々に恋の感覚を味わえたのも、良い映画体験になった。
そんな手記が祖母や母に響いて、曲解されていくのが、これまたおもしろい。祖母は出版するべきだと孫の才能を褒め、母はこれは虐待だと教師を責める。考え直した後で、虐待ではなく、フェミニズム小説だ!となったのもおもしろかった。
母も母で、疲れている感じとか、恋人がいる感じとか、若干不安定に見えて、その気持ちで読んだ感想としてそういう感情が出て来るのが面白いと言うか。実際に、教師と会う展開も、そこで視聴者に初めて教師の心情が明かされる展開もとても良かった。そこで17歳の恋心を挟んだ、大人同士の会話が初めて立ち現れると言う感じがして。母も、あの教師なら…と思ったんじゃないかな。そんで、あの人も多分、女性のパートナーと結婚したのかな?その展開も素晴らしかった。
その後の、メンタルクリニックでの、教師の元教え子との再会。粋な映画の奇跡ですな。あの、実は90分経ってた、というのも良かったし、あの教師の家で印象の悪かった、あの女性というのがまたいい。あの人も、精神的に何かあったのよね。多分、あの教師にあっていた時からちょっとそういう感じあったのかもな。17歳には感じ取れない何か。ラストは、並んで歩くあの二人の背中を見ながら、いつか笑い話として話せるといいね、なんて思いましたよ……。とはいえあの二人、何歳と何歳だよ。
