「行動し、挑発し、傷を引き受けた人生」リー・ミラー 彼女の瞳が映す世界 KaMiさんの映画レビュー(感想・評価)
行動し、挑発し、傷を引き受けた人生
VOGUE誌の表紙を飾ったモデルから第二次世界大戦の戦場カメラマンに転身したリー・ミラー。その存在を知るだけで意味のある映画だった。演じるケイト・ウィンスレットも本人が乗り移ったかのような力の入った演技で、代表作タイタニックを今から見てみたくなった。
冒頭、セレブ達がフランスの海岸で優雅にバーベキュー、主役のリー・ミラーはいきなり上半身裸で、胸をあらわにしながら煙草をスパスパ。その場を訪れたイギリス人アーティストと、数時間で恋に落ちる。
こういう肉食系の女性でありつつも、戦争が始まればいてもたってもいられずカメラマンとして戦場に乗り込む。ナチスが占領中のフランスを連合国が奪回する、ノルマンディー上陸作戦だ。
豊満な肉体と、戦争の状況を読み取る知性、戦場における男女の境界を突破しようとする執念や行動力。全部の方向へ100%エネルギーを注ぐ、今までにないような人物像に引き込まれた。
過酷な戦場でミラーの視線が向かうのは、何重にも傷つけられる女性の存在だ。フランスではナチスに協力したとして街頭で丸刈りにされる若い女性、ドイツでは男性の影に隠れてパンを分け合う、ホロコーストの生き残りのユダヤ人少女。
彼女たちの警戒心を解くため、ミラーは英語からフランス語に言葉を切り替えたり、「男装」して帽子の中に隠した長い髪をほどいたりする。
クライマックスはミュンヘンのヒトラーの私邸に忍び込み、浴室で自分を被写体にフォトセッションを敢行。これをナチスに向けた芸術的な挑発だと理解した。モデル、カメラマン、演出家としての役割を兼ねるミラーの真骨頂だろう。
女性が背負う見えない傷という現代的テーマもひしひしと感じる。何かに突き動かされるように悲惨な戦場を直視するミラー。しかし「見てしまった」ことによる傷、見たものを共有しようとしない友人への不信感という傷も背負うことになった。
ミラーが戦後、自分のキャリアについて語らなかったのもそれらの傷のためだろうか。晩年のミラーを描く場面はやや単調で、沈黙への答えを得る難しさを想像させられた。
コメントありがとうございます。人間は何でもかんでも意識的に動いてる訳でないと思います。無意識の領域は半端なく広く深くそれが想像以上に力を持っていると思います。悪意ある言動は「わざと」が多いから、敢えて意識化させる必要があるとおもいます
コメントをありがとうございました。映画は戦争が始まるまでの人生を思い切りよく省略しているので、なぜこの女性が戦場へ?というインパクトがありました(説明不足とも言いますが)。
戦場で女性たちの傷に共感する場面や、ヒトラー邸でモデルとしての顔を見せる場面など、大事な瞬間でミラーの中に折りたたまれた過去が顔を見せていたようです。そんな多層的な人物像が魅力的だったと思います。
どうして従軍カメラマンに?という部分はよく解らなかったのですが、理屈じゃない!って事なんですかね、記事も書いていた様でこの辺に思想が出てたんではとも思います。
とにかく戦争にじわじわと喰らい尽くされた人生で、ちょっと気の毒でした。
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