「彼女が見てきたものを再現するなら、ラストのネタバレはない方が良かったかも」リー・ミラー 彼女の瞳が映す世界 Dr.Hawkさんの映画レビュー(感想・評価)
彼女が見てきたものを再現するなら、ラストのネタバレはない方が良かったかも
2025.5.15 字幕 イオンシネマ京都桂川
2023年のイギリス映画(116分、G)
原作はアントニー・ペンローズの伝記『The Lives of Lee Miller』
実在の写真家、リー・ミラーの半生を描いた伝記映画
監督はエレン・クラス
脚本はリズ・ハンナ&マリオン・ヒューム&ジョン・コリー
物語の舞台は、1977年のイギリス、ファーリー・ファーム
モデル、写真家としての生涯を送ってきたリー・ミラー(ケイト・ウィンスレット)は、ある若いジャーナリスト(ジョシュ・オコナー)の取材を受けていた
ジャーナリストは彼女が撮った写真を見ながら、そこに込められた「物語」に傾聴していく
舞台は変わり、1938年のフランス・ムージャン
リーは友人たちと共に避暑地を訪れ、ジプシーのような生活を送っていた
モデル仲間のヌーシュ(ノエミ・メルラン)とその夫ポール(ヴァンサン・コロンプ)、編集者のソランジュ(マリオン・コティヤール)とその夫ジャン(パトリック・ミル)たちと過ごしていたリーだったが、そこにイギリス人の芸術家ローランド(アレクサンダー・スカルスガルド)が招かれてやってきた
リーは「どうしてこれまで出会わなかったのかしら?」と言い、ローランドの人となりを推理し始める
友人たちは「また、始まった」と言い、「今度は僕の番だ」とローランドもリーの人柄を語り始めた
その後、第二次世界大戦が本格化し、リーはローランドと共にロンドンに逃げることになった
パリは陥落し、ロンドンにも空爆が起こるようになり、そこでリーは爆破された街の写真(家の防空壕)を撮り始める
そして、現地にアメリカから派遣されていた従軍写真家のデイヴィッド・シャーマン(アンディ・サムバーグ)と出会い、行動を共にすることになった
イギリス政府は女性を戦地に派遣することを認めていなかったが、アメリカ人のリーは母国で申請をし、ようやくノルマンディーに行けるようになる
だが、最前線は想像以上に酷いもので、リーはそこで補給機のパイロットをしているアン・ダグラス(Harriet Leitch)と出会い、彼女を写真に収めた
映画は、1945年のドイツ・ベルリンにて「ヒトラーの家のバスタブで写真を撮る」というところまでを描き、ダッハウ、ブーヘンヴァルトの二つの収容所の現実を写真に収めていく様子が描かれていく
構成としては、ジャーナリストがリーの回想録を聞くというテイストだが、実際には「リーの死後に遺品を見つけた息子の想像」というものになっていた
リーは息子に戦争写真家であったことを死ぬまで隠していて、息子は第一子が生まれた際に「自分の幼少期の写真」を探すことになった
その際に母親が何をしていたかを知り、それを後世に残すための活動を始めている
原作にあたる伝記小説、ロケ地として使われたファーリー・ハウスなどがその活動の一環であり、それによって、第二次世界大戦の知られざる物語というものが世に出るようになったと言われている
映画は、女性が見た戦争という視点で語られ、戦争の影に隠れて蔑ろにされた女性の悲哀を切り取っていく
それと同時に、女性が踏み込めなかった世界を切り開いていく様子が描かれ、その集大成がバスタブの写真であると言える
この写真を撮る時にヒトラーの家で多くのアメリカ兵などがヒトラーが好んだウイスキーなどを飲んではしゃいでいたが、それらの道徳的とは言えない行為のさらに上をいくのがリーの写真であると思う
これまではどうして撮ったのかは謎だとされていたが、彼女の物語を女性目線で再構築すると、あのような理由になるのだろう
収容所での汚れをあの場所で洗い流すことに意味はあるし、騒いでいるアメリカ兵の倫理観を超えた、というところに彼女らしさというものが凝縮されているのかな、と感じた
いずれにせよ、女性が戦地に入ることで救われる女性もいれば、そこで尽くしている女性たちの励みにもなるので必要だと思う
イギリスとアメリカで扱いが違うところは国柄だが、彼女がアメリカ人でなければ成し得なかったというのは事実だろう
その後、戦争をどう裁くかという部分でもイギリスとアメリカの姿勢は違うし、アメリカでもダメなもの(ナパーム弾使用)はダメだったりする
そう言ったものが時代を超えて蘇ったのが戦後30年後であり、そこから多くの人が戦争がどんなものだったのかを知ることになった
そう言った効果を前面に押し出すというのも方向性の一つだと思うが、映画は「実は息子だった」というものをミステリーにしているので、それがうまくハマっているのかは何とも言えない感じがした
キャスティングの妙なのか、息子はどっちかというとデイヴィ寄りに見えるので、そのあたりに意図があったのかはわからない
それは重要なことではないと思うのだが、見えない痛みを描く映画ということを考えれば、見えないものを映している部分もあるのかな、と感じた
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