「【”良かれと思う事が大切、と老婦人は優しく言った。”今作はミステリー風味を漂わせつつ、人生の終盤を生きる女性の姿をフランソワ・オゾン監督が積み重ねた人生経験を表敬する姿勢で描いた逸品である。】」秋が来るとき NOBUさんの映画レビュー(感想・評価)
【”良かれと思う事が大切、と老婦人は優しく言った。”今作はミステリー風味を漂わせつつ、人生の終盤を生きる女性の姿をフランソワ・オゾン監督が積み重ねた人生経験を表敬する姿勢で描いた逸品である。】
ー フランソワ・オゾン監督作品を映画館で観たのは「二重螺旋の恋人」が初めてであったが、エロティック且つミステリアスな内容に引き込まれ、パンフを即購入し、その後今作の前作までは全て映画館で観て来た。だが、この作品は私の居住区では公開館が少なく見逃していたのだが、鑑賞すると、フランソワ・オゾン監督のハイレベルなオリジナル脚本作りを含めたその才能に改めて驚くのである。-
■舞台は秋の自然豊かなブルゴーニュ。ミシェル(エレーヌ・ヴァンサン)は高齢だが、田舎での一人暮らしを楽しんでいる。
近くに住むマリー=クロード(ジョジアーヌ・バラスコ)とは、仲が良い。昔同じ”仕事”を巴里でしていたらしい。序盤は穏やかなトーンで物語は進む。
そこに、離婚調停中の娘のヴァレリー(リュディヴィーヌ・サニエ)が息子ルカを連れて休暇に来ると穏やかならぬ雰囲気が流れ始める。娘の母に対する口の利き方が、一々棘があるのである。
娘と孫に食べさせるためにマリー=クロードと、セップ茸などを取って来て振舞うが、只一人その料理を食べたヴァレリーは食中毒で病院に運ばれてしまう。
彼女は退院するが怒りは激しく、”息子も殺される!”とミシェルに言い放ち巴里へ戻ってしまうのである。落ち込むミシェルだが、マリー=クロードの息子で麻薬密売の罪で刑務所に入っていたヴァンサン(ピエール・ロタン:「ファンファーレ!ふたつの音」で、弟君を演じた人である。今作でも存在感が抜群である。)が出所してくる。
彼は、ミシェルの家の庭を整備し薪を割る仕事をしてあげる。そして、ションボリしている彼女の話を聞き、巴里のヴァレリーに会いに行くのである。
”スマホをミシェルの庭のテーブルに忘れたまま・・。”
◆感想<Caution!内容に触れています。>
・粗筋を細かく書いたが、フランソワーズ・オゾン監督のオリジナル脚本が、今作品も冴えわたっているのである。オゾン監督は多作の監督であるが、ほぼオリジナル脚本であるところが凄いのである。
・演出としては、ヴァンサンがヴァレリーに会いに行くところまで映されて、その後ヴァレリーが、アパルトメントから落ちて死んだという事実が描かれずに、電話で告げられる展開も絶妙に上手いのである。
・異国の地で働く夫ロランの下に行くことを拒んだヴァレリーの息子ルカは、ミシェルと暮らし始める。嬉しそうなミシェル。だが、ルカはミシェルがルカが生まれるまで、ヴァレリーを女手一つで育てる為に巴里で行っていた娼婦の仕事の為に、上級生に苛められるのである。そして、その仕事がきっかけでヴァレリーとの間に軋轢が出来ていた事も明らかになるのである。
ー 私は思うのだが、人類最古の商売と言われる娼婦の仕事は、ミシェルの様に夫が出て行き金だけ偶に送って来る境遇の女性が仕方なく付いた仕事であり、何で娘のヴァレリーは分かって上げれなかったのかな、と思うのである。ヤッパリ無理なのかな。
けれども育児放棄やヴァレリーを施設に入れずに育て上げた事は立派だと思うのだけど。それは、マリー=クロードも同じだと思う。故に二人は親友になったのだとも思うのである。-
■ヴァンサンがヴァレリーに会いに行った事を隠し通そうとするミシェルに、女警部がイロイロと調査してくるシーン。ミシェルが再出発の為に食事の店を開けた時の開業資金を”出世払い”として貸した事などから。けれども、ミシェルはキッパリと”あの子は私の庭仕事をしていました。”と答えるのである。
更にはルカが自分を苛めていた上級生に、ヴァンサンがムショ帰りと告げた、と彼が学校に迎えに行った帰りにバスの中で告げ、上着の胸ポケットから水鉄砲を出して水を掛けるシーンも良いのだな。故に彼も、非常カメラに映っていた”母に会いに行った自分がアパートの入り口の扉を明けた瞬間に擦れ違いで入って行ったフードを被った男の顔を見たか?”と、女警部に問われた時に、”知らないオジサンだった。”と答えるのである。
・後半の演出としては、死んだヴァレリーが、最初は青白い顔でミシェルに対し恨み言を告げる姿から、この世に現れる度に徐々に表情が和らいで来るのも上手いと思ったのである。
末期癌で死んだマリー=クロードの葬式の時に入って来た、老いた多くの女性達(且つての娼婦仲間であろう。)の姿をさり気無く映しつつ、葬儀場の外で一人涙するヴァンサンの姿と、彼のその姿を探しに行ったルカが見るシーンも良いし、ミシェルがマリー=クロードの墓に花を供えた後に、ヴァレリーの墓の前に行き綺麗に掃除をし花を供える彼女の後ろに、やや複雑な表情で立つ、死んだヴァレリーの姿・・。
■年は流れルイは巴里で美術学校に通っている。久しぶりにブルゴーニュに戻って来た彼を車で出迎えるのは、ヴァンサンである。
そして、且つてミシェルがマリー=クロードと茸を取りに行った森に行く道で、三人は車を降りる。そこで、ミシェルが森の中で見た鹿たちの群れ。誘われるように森に入って行った彼女の前に現れたのは穏やかな微笑みを浮かべるヴァレリーであり、彼女はミシェルに手を差し出すのである・・。
<今作はミステリー風味を漂わせつつ、人生の終盤を生きる女性の姿をフランソワ・オゾン監督が積み重ねた人生経験を表敬する姿勢で描いた逸品であり、最後の最後に母娘の確執が解けたシーンが沁みるヒューマンファンタジーでもあるのである。>
おはようございます!
私も今日は自宅で配信観ます~
2026年公開の「教場」に向けてネトフリで過去作一気観しようと思ってます!
あと1作竹野内豊さん主演の作品が気になってるんで平日行こうか考え中です、連休中だと道が混んでてイヤなので。
この宣材で意外なミステリー風味な作品でした、宮崎キネマ館は支配人さんの頑張りで面白い映画を上映してくれています。リクエストも聞いてくださるので、ありがたいです。宮崎の田舎でありながら、映画体験は豊潤で、本当にありがたい存在です。


