劇場公開日 2025年5月30日

「あなたの罪が許された」秋が来るとき ジュン一さんの映画レビュー(感想・評価)

4.0あなたの罪が許された

2025年5月31日
PCから投稿
鑑賞方法:映画館

泣ける

悲しい

難しい

冒頭、主人公が教会で牧師の説法を聴いている。

読み上げられているのは〔ルカによる福音書7章〕。
『マグダラのマリア』が自身の髪で『イエス』の足を拭く
「罪深い女を赦す」の節。

なんということはない場面も、
これが鍵になるシーンと、あとあと気づくことになる。

田舎の家で独り暮らす『ミシェル(エレーヌ・ヴァンサン)』の元を、
パリに住む娘の『ヴァレリー』が息子の『ルカ』を連れて訪れる。

得意の料理の腕を振るい、二人を歓待する『ミシェル』。
が、茸料理を食べた娘だけが、食中毒を起こし病院に救急搬送され
「私を殺そうとした」と、心無い言葉を母親に投げつける。

そう言えば、久々に会ったにもかかわらず、
母娘の様子は最初からよそよそしい。

あまつさえ娘は、
田舎の家の名義も自分に変えろ、
毎月500€を仕送りしろと母親に要求する。
既にパリのアパルトマンを譲られているのにもかかわらず。

観る者が義憤を覚える言いぐさも、
母親の過去に対する嫌悪感が根底にはあるよう。

ここで、冒頭のシーンが思い出される。

『ミシェル』の親友『マリー=クロード(ジョジアーヌ・バラスコ)』の息子
『ヴァンサン(ピエール・ロタン)』が刑務所から出所する。
彼が何の罪で服役していたのかは明らかにされない。

「やんちゃが過ぎた」とは『ミシェル』の、
「アイツはダメなヤツ」とは『ヴァレリー』の弁。

彼を息子同然に気遣う『ミシェル』は、なにくれとなく面倒を見る。

その恩に報いるべく、パリの『ヴァレリー』に会いに行く『ヴァンサン』。

しかし、ここで悲劇は起きる。もっとも、その真相は藪の中。

登場人物の全員に怪しさがある。

『ヴァンサン』の告白は本当か。

『ヴァレリー』の食中毒は狂言ではないのか。

『ミシェル』は娘を憎んではいなかったのか。
また『ヴァンサン』に、何の仄めかしもしていなかったのか。

『マリー=クロード』は息子を心底信じていたのか。

『ルカ』は何故、嘘をついたのか。

皆々が、なにがしかの思いや秘密を抱えている。

その魂が救済されるのは、いつのことだろう。

ドラマは起きつつも、描写は淡々とし、
ブルゴーニュの美しい風景に隠されてしまう。

BGMでさえ、画面の出来事と裏腹で、
予定調和を外している。

登場人物の表情は曖昧で
何を知っていて何を知らないかも判然としない。

物語りの全てが模糊としたベールに覆われ
鑑賞者を翻弄する。

ジュン一