「「安定と信頼」のフランソワ・オゾン」秋が来るとき TWDeraさんの映画レビュー(感想・評価)
「安定と信頼」のフランソワ・オゾン
ペース良く作品を発表し、そしてどれも一定水準以上のクオリティで「安定と信頼」のフランソワ・オゾン監督。公開初日の本日はあいにくの雨天となりましたが、TOHOシネマズシャンテ11時からの回はそれなりにお客も入っていて、オゾン監督の人気が裏付けられているように思えます。
物語の主人公ミシェル(エレーヌ・ヴァンサン)は独り、自然豊かなブルゴーニュの田舎で人生の終盤を過ごしています。家庭菜園で食材を賄い、勝手知ったる台所で要領よく作られるミシェルの料理とワインに心奪われ、即、彼女に感情移入してしまう単純な私。とは言え、作品を通して彼女を取り巻く人たちの選択のアレコレに、一般的な善悪という判断だけでは収まり切れない難しさもありますが、決して否定しきれない人間臭い人々とストーリーについ、自分自身の「人生」を考え直すような一本です。
序盤、久しぶりに会う娘と可愛い孫の来訪を待ちわびつつ、二人に振舞おうと古くからの親友マリー=クロード(ジョジアーヌ・バラスコ)と連れ立ってキノコ狩りへ向かうミシェル。図鑑と見比べながら注意深く選別したつもりでしたが、そのキノコの料理がまさか、その後のミシェルの人生を揺るがすような、思いもよらぬストーリーの幕開けとなります。紆余曲折していく展開と、その都度「どちらに転ぶか」の岐路の連続に、観ているこちらも試されている気分になって気づけば夢中に。そして、わざとらしくならない範囲で判りやすく且つ巧みに「伏線」を置いてくれるため、後のシーンで早々に「あれの回収」だと気づいて見入ることで感慨が深まって、より一層印象に残ります。
結果はあくまで結果であり、それは抗うことのできない「さだめ」。大切なのは相手のために「善かれ」と思って採る選択と行動。人生には思い通りにならないことが多々ありますが、そのことで誰かを恨むのではなく許す(赦す)ことで、自分を苛む苦しみから解かれて安らぎます。まさかの運命が待っていたミシェルの人生終盤、苦労や不幸を感じることも少なくありませんでしたが、最後のシーンを観ればミシェルが「報われた」と感じたに違いないと確信を持てて「良かったね」と声を掛けたくなります。
本来なら、キリスト教(カトリック)に関する理解があればより深みを感じるだろう本作ですが、無宗教或いは無神論であってもしみじみ自分の人生を思い返し、わだかまっていることを解消したくなるような前向きさをもらえる一作。やはりフランソワ・オゾンは見逃せない。