チェルシーホテル : インタビュー
「トレーニングデイ」で本年度アカデミー賞候補となったイーサン・ホークが、私生活のパートナーでもあるユマ・サーマンを主演に迎えて初監督に挑戦。映画の舞台となった伝説のホテルで、その胸の内を語った。
イーサン・ホーク インタビュー
田畑裕美
「ホテルの前で、あそこでは何が起きてるんだろうって想像してたんだ」
「やあ、来てくれてありがとう。本当にうれしいんだ。インタビューは楽しいね」
ニューヨーク西23丁目にあるチェルシー・ホテルの一室で、イーサン・ホークは開口一番、そう言った。ここはバロウズが「裸のランチ」を、アーサー・C・クラークが「2001年宇宙の旅」の脚本を書き、アンディ・ウォーホルが「チェルシー・ガール」を撮った場所。イーサンが兄とも父とも慕うサム・シェパードはここでパティ・スミスと同棲していた。いわば彼の憧れの牙城。
「ニューヨークに出てきた頃、よくこのホテルの前に立って窓辺を見上げては想像してた。あそこでは何が起きてるんだろうって」
その想像を友人の脚本家ニコール・バーディットと広げて、彼は初監督作「チェルシーホテル」を撮った。念願の素材、監督デビュー……話したいことが山ほどあるのは想像つくが、にしても「インタビューが楽しい」なんて素直な発言。
インディーズ色濃厚なこの映画は、カサベテスからの影響が一目でわかるが、イーサンは、映画の巻頭で「こわれゆく女(ア・ウーマン・アンダー・ジ・インフルエンス)」の影響下に作られたことを記している。おまけに製作会社の名まで「アンダー・ジ・インフルエンス」。なんて素直なヤツ! つられてこちらも素直に聞いてしまった。
──ハリウッド・スターであるあなたが、こんな繊細な映画を撮るなんて、アンチ・ハリウッドとは言わないですが……。
「あはは、まあ、ハリウッド支持の映画ではないよね。監督の仕事というのは大変なんだ。資金を集め、脚本家と台本を練り、キャストを決め、撮影、美術、音楽の打ち合わせ……丸2年も自分を捧げなきゃならない。それに比べて、俳優の仕事はせいぜい3~4カ月、拘束されるだけ。だから監督をするときは、どうしても自分のパーソナルなものにならざるを得ないんだね」
──あなたは小説(「痛いほどきみが好きなのに」)も書いていますが、あれは自伝的なものですか?
「いや、テキサスからニューヨークに出てきた若い俳優が主人公だと、みんなにそう思われてしまうけど、あれはフィクションだよ。自分自身の体験もいくらかは入っているけれど。書くことはとても好きなんだ。そうそう、もうすぐ2冊目の本が出るんだ。『Ash Wednesday』というタイトルだよ」