「抽象と捨象」あの星に君がいる 蛇足軒妖瀬布さんの映画レビュー(感想・評価)
抽象と捨象
確かなシナリオ進行と多岐にわたるアイデアの新鮮さによって、
観る者の心に深く響く可能性を秘めた作品だ。
特に、主人公二人の繊細な心の距離の取り方や縮め方、
0ミリ~2億キロ(地球~火星)まで、
そして物語の根幹をなす最先端テクノロジーの概念は、
ライトなSFロマンスとしての本作に新鮮な息吹を与えている。
未来的なデバイスやホログラム表現といった要素は、
単なる背景に留まらずストーリーテリングに深く関わっており、
その着想の面白さには確かな光るものがある。
しかしながら、本作をさらに高みへと押し上げるには、
視覚的な情報整理と演出の洗練が不可欠だと感じた。
具体的には、レイアウトやアニメーション、
ライティングといった技術面において物足りなさを覚える場面が少なくない。
特に、室内の描写やホログラムの表現、
モニターのあり方など、抽象と捨象あるいは、
抽象化と具体化の取捨選択にさらなる洗練が必要だろう。
例えば、緻密に描かれるべき部分と観客の想像に委ねるべき部分との境界線が曖昧なため、
時に情報過多に感じられたり、
芝居やストーリーの阻害となってしまうシーンも散見された。
観客が「何に注目し、何にフォーカスすべきか」という点において、
監督の意図が必ずしも明確に伝わってこない場面があるのは惜しい点だ。
背景のディテールがノイズとなって主要な要素から視線を逸らしたり、
ライティングがせっかくの色彩豊かな世界観を十分に引き出しきれていなかったりする印象を受ける、
結果として、強調すべきポイントが散漫に感じられ、
本作が持つ本来の魅力が十分に発揮されていないように思える。
それでも、本作が持つ豊富なアイデアは、
今後の試行錯誤によってさらなる進化を遂げる可能性を十分に感じさせる。
もし、アイデアと映像表現のバランスがより均衡していけば、
その豊富なアイデアはまさに鬼に金棒となり、
未知のレベルへと昇華することだろう。
現時点では未完の大器とも言えるが、そのポテンシャルは計り知れない。
今後の韓国アニメーション界が、
この作品を糧にどのような進化を遂げるのか、期待したくなる作品だ。