劇場公開日 2025年4月11日

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「アイルランド」プロフェッショナル R41さんの映画レビュー(感想・評価)

4.5 アイルランド

2025年6月14日
PCから投稿
鑑賞方法:VOD

現題名は「聖人と罪人の地にて」と訳すことができる。
故に最後の「罪と罰」の本が生きてくる。
この物語はイギリス領の北アイルランド視点ではなく、アイルランド共和国側の視点で描かれているという点が重要だろう。
1970年代 IRAによる爆破テロが国際問題化していたころ。
歴史とは勝者の歴史、または統治者による一方的な視点となる。
アイルランド視点で見るIRAは、アイルランド島全体の統一と、イギリスからの完全な独立を目指す武装組織。
アイルランドのカトリック系住民を中心に支持され、特に北アイルランドにおけるイギリス支配に対する抵抗運動の象徴的存在だった。
故にIRAは単なるテロ組織ではなく、民族解放運動のひとつと考えられている。
特に1970年代以降の「暫定IRA(PIRA)」は、イギリス軍や警察による弾圧に対する防衛的な存在として、一定の市民の支持を得ていた。
この背景があってこの物語がある。
日本人にとってはほんの少しの知識しかないことで、この物語の解釈が多く気変わってしまうだろう。
彼らのテロ活動を支援する動き等々存在する。
主人公フィンバーもまた、アイルランドのために敵を暗殺する仕事に就いていた。
フィンバーは人を殺しことに対し罪の概念を持つようになっていた。
これがこの物語のひとつの軸となっている。
敵役のIRAはベルファストで爆破テロを成功させてこの地で身を隠していた。
そのひとり、デランの弟の行方が分からなくなったことでフィンバーとIRAが争うことになる。
アイルランドという国のためにテロを続けるデラン
その意志は固い。
同時に弟の面倒も見る。
その延長線上で起きたトラブルが、この物語であり、一番大きな軸
若い暗殺者ケビン
殺しを簡単なものとし、女まで殺した経験がある彼を、フィンバーは良く思わない。
しかし彼との会話で彼への印象を少しずつ変える。
ここも一つの軸
くだらないやつだと思っていたケビンだったが、腕の良さ、やると決めらた逃げないことなどがフィンバーの見方を変えてゆく。
リタとは、アイリッシュの代表だろうか?
フィンバーの職業よりも、彼の生き方に共感する。
フィンバーもまたアイリッシュの代表だろう。
弱きを守り強きをくじく。
ただ、
彼のしていることそのものは罪深さを拭えない。
だからデランを殺すことなく、弟の隣に埋める。
二人は同じ目的で殺人をしてきた。
戦争
彼らの背景にある戦争
それがもたらす狂気と惨劇と作り続けられる復讐の連鎖
この55年前の傷は今もアイリッシュの心に影を落としているのだろう。
こんなことが55年前には普通にあった。
聖人とはキリスト教の聖人たちのことだろうか?
敬虔なカソリックのいる場所で起きる戦争
デランは「神は私のした正しいことをわかってくれる」と言った。
しかしフィンバーは、彼女のその言葉に同意したい部分と、「罪と罰」に書かれている内容とを考え罪悪感が拭えない。
割り切れない気持ちこそ、フィンバーの中にあったものだろう。
自分の身代わりに死んだケビンの不条理も心の中にあっただろう。
友人の警察官ビンセントは、フィンバーの「本質」を見抜いていた。
彼らがこの地へ逃げ込んだ際に壊した看板は新しく立て替えられた。
古くなったり壊れたりしたものはまた新しくなってゆく。
アイリッシュの歴史 イギリスの植民地
これに抵抗したIRA
しかし、
血で血を洗うことはもう終わりにしようというのが、この作品だろう。
おそらく日本人にはわからない闇の深さがある。
だから、ひとことで評価できないが、この物語の深い傷跡は感じることができるように思う。

R41
ノーキッキングさんのコメント
2025年6月14日

面白く観たのですが、リーアム・ニーソンにドストエフスキーやウエスタンが似合うのか……

ノーキッキング
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