「ボレロの涙の意味を深く味わいたい。」ファンファーレ!ふたつの音 ふくすけさんの映画レビュー(感想・評価)
ボレロの涙の意味を深く味わいたい。
指揮者として成功した兄(ティボ)が白血病を宣告される。
血液適合検査で、妹と血縁関係がないことが発覚し、ティボは養子であり、血のつながった弟(ジミー)がいることが明らかになる。
弟の骨髄移植を経て、兄は健康を取り戻す。
兄は弟の音楽的才能を感じて弟にもっと野心を持つべきだと励ます。
しかし、弟の音楽的才能とは、実は絶対音感ただ一つなのだ。
プロ用のトロンボーンを贈られたジミーはプロのオーケストラでの欠員募集に応募するが、他の応募者との実力の巨大な差に打ちのめされる。
兄の言う野心とは分をわきまえてのことで、弟は自分の「勘違い」に傷つく。
兄は、自分だけが恵まれてしまったことに負い目を感じ、なんとか弟を引き上げようと尽力するが、結局、弟とその周りの人間の厳しい環境を変えることが出来ない。
有名な自分が指揮をするとなれば工場の吹奏楽団は注目される、そこでボレロを演奏しようと提案するが、それで工場閉鎖が取りやめになったりするだろうか。
弟は兄の指導を得てメキメキと指揮者としての実力を得ていく、とは決してならない。
お前だけ宝くじを当てやがって、イライラする!という弟の叫びは全く本音であろう。
どうしたって上から目線のお気楽なアドバイスを超えることができない。
そして、ティボの白血病は再発し、最後のティボの作曲した交響曲の指揮はおそらく最後のステージになるだろうことが示唆される。
演奏後、ティボが指導していた「合唱」によるボレロが、ジミーの指揮で会場に響く。
ここでいきなり、涙がこぼれる。
え、どうして泣けるの?
なぜ、コンサートの最後に素人のボレロの演奏が、しかも声だけの演奏が許されるわけ?
みな、どうしてそれを当たり前に受け入れるの?
直ちに疑問がわく。
そうだ、工場は閉鎖されたのだ。←画像はこの場面のみ。
それなら、楽器は没収され、ティボのボレロのコンサートも頓挫しているのだ、そしてそのことはニュースになっていて、おそらくコンサートに来ている観客はそのことを知っているのだ。ボレロのコンサートが実施される前を狙って、工場は企業によって電撃的に閉鎖されたのだろう。
あのコンサートに集まった工場労働者たちは、ほとんどが失業者なのであろう。
私の理性はそのように慌てて解釈するが、そのようなことを理解する前に涙があふれている。
これこそ音楽の力なのだろう。
あのボレロはティボのレクイエムになるだろうことが悲しい。
しかし、あの最後のボレロのもたらす幸福感は深い。
彼らの現実がどうなるかは、全く明らかにならない。
ただ、あの多幸感で映画は閉じられる。
おしゃれだ。さすがフランス。
ただ、一つ指摘したいのは、フランスにおいて、階級を上に移動するのは不可能なのだということが、ここに現れているということ。
ご都合主義のハッピーな展開がない分、落ち着いた大人の映画であり、そこが尊いのだが、フランスの闇の深さもちゃんと感じておきたい。
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