劇場公開日 2025年9月19日

「普通のフランス映画に接する喜び!」ファンファーレ!ふたつの音 詠み人知らずさんの映画レビュー(感想・評価)

4.0 普通のフランス映画に接する喜び!

2025年9月25日
PCから投稿
鑑賞方法:映画館

つかみは抜群!最初に出てきた兄ティボの指揮する劇的なベートーヴェンのエグモント序曲と、弟ジミーが初めて兄を訪ねてきた時、ヘッドフォン越しに聴いたモーツアルトのピアノ協奏曲第23番の第2楽章がよかった。この第2楽章は、東山魁夷画伯が描いた絵画の中で、最もよく知られている「緑響く」を思い出させる。

この映画のテーマは、脚本も担当されたエマニュエル・クールコル監督も言われているように、社会、労働者、音楽という、英国で取り上げてきたターゲットに近い。この映画の舞台も、英国に近いフランスのノール(北の方)と呼ばれる地域で、ダンケルクやユーロスターが通るリールの近く。ただ、過去には繁栄した重要な鉱工業地帯だが、EUの発展に伴い、移民を抱えるパリの近郊とは、また違った苦しさがある。ジミーがトロンボーンを吹いているワランクール炭鉱吹奏楽団も、コスチュームは炭坑夫を思わせるが、炭鉱自体は1980年に閉山し、楽団を町の人が引き継いでいる。何とこの地域には、活動を続けている吹奏楽団が800にも及ぶそうだ。その後できた工場も閉鎖の憂き目に遭っているが、何とかして、その状態を乗り切りたいというのが底流だろう。

生き別れだった兄と弟も、兄ティボへの骨髄移植のために出会ったが、最初からうまく行ったわけではなかった。兄は小さい頃から音楽家となるための理想的な環境に置かれ、裕福な人向けのクラッシック音楽の世界にいたが、弟はそうした環境ではなく、労働者と共に、楽譜の読めない人もいる吹奏楽団にいる。二人の心が触れ合ったのは、ジャズ「クリフォードの思い出」であったことが印象的。二人とも音楽について、特に秀でた才能を持っていたからだろう。エンディングでは、ある曲の演奏をきっかけに何とか和解に漕ぎつけることができた二人だが、今後の行方は決して平たんではない。ティボには病との、ジミーには職との戦いが待っている。途中、シャルル・アズナブールの歌「Emmenez-moi (世界の果てに)」で出てきた「Moi qui n’ai connu toute ma vie que le ciel du nord (私は今まで北の空しか知らなかった)」という歌詞が心に残る。北の海に射す僅かな光明、これがフランス映画。

詠み人知らず
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