劇場公開日 2025年9月19日

「『ラベル』の〔ボレロ〕は、本作のような使い方でこそ生きて来る」ファンファーレ!ふたつの音 ジュン一さんの映画レビュー(感想・評価)

4.0 『ラベル』の〔ボレロ〕は、本作のような使い方でこそ生きて来る

2025年9月21日
PCから投稿
鑑賞方法:映画館

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世界的に名を知られている指揮者にして作曲家の
『ティボ(バンジャマン・ラヴェルネ)』が白血病に倒れる。

ドナーを探すうちに、自身が養子であること、
血の繋がった実の弟がいることが判る。

弟の『ジミー(ピエール・ロタン)』は
別の家族の養子となっていたが、
葛藤の末に骨髄の提供を承諾する。

一旦の完解を得た『ティボ』は
礼に訪れた弟の家で、
彼が素人楽団でトロンボーンを吹いていることを知る。

今度は兄が助ける番。
次々と襲い掛かる楽団の難局に、
共に知恵を出し、立ち向かっていくのだが・・・・。

{音楽映画}に駄作無しと個人的には思っている。
とりわけオーケストラをモチーフとした群像劇は
成功確率が高いよう。

一方、個人に焦点を絞ったものでは、
直近の〔ボレロ 永遠の旋律(2024年)〕のように
不完全燃焼な一本が多い。

同作では〔ボレロ〕完成までの過程を描くものの、
初演のカタルシスに対し、
作曲までの長時間の呻吟や強い懊悩が前に出過ぎ、
陰鬱な空気に貫かれてしまう難。

一方本作は、ある意味で王道を行くもので、
ラストのシークエンスでは感涙がこみ上げて来る。

団員たちが、これほど暖かい表情で演奏する一曲を
嘗て観た記憶がないほど。

ちなみにその楽曲こそ、
先に挙げられた『ラベル』の〔ボレロ〕。

もっとも中途の過程では、
選曲の変遷を含め、
観る側の事前予想を
(良い意味で)ことごとく裏切ってくれるのだが。

プロの指揮者である兄が、
素人たちにどれだけ丁寧に教えても、
使用言語が異なることで伝わらないもどかしさ。

たまたま養子に貰われた家庭の格差が
その後の人生に大きく影響する皮肉。

斜陽産業である鉱山を母体とした楽団が、
企業や行政に見放されて行く世情。

一波乱二波乱どころか、
三つも四つも新たな展開を用意し、
最後は予定調和の大団円に収める脚本の妙が素晴らしい。

一軒、多幸感のあるファンタジーにも取れるが、
舞台となったフランスでは
「黄色いベスト運動」に象徴されるように
格差は拡大をしているよう。

話中でも、炭鉱が閉鎖されたことにより
多くの失業者の生活に影が落ちるエピソードも示される。

資本家や官憲に対するレジスタンスは、
必ずしも強硬な姿勢ばかりではなく、
ソフィスティケートされた手法でも
十分に人心に訴えることを本作では見せてくれる。

ジュン一
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