「エンドロールの楽曲は「Valse Pour Thibaut(ティボへの円舞曲)」でした」ファンファーレ!ふたつの音 Dr.Hawkさんの映画レビュー(感想・評価)
エンドロールの楽曲は「Valse Pour Thibaut(ティボへの円舞曲)」でした
2025.9.20 字幕 MOVIX京都
2024年のフランス映画(103分、G)
白血病を患った名指揮者と初対面の実弟との関わりを描いたヒューマンドラマ
監督はエマニュエル・クールコル
脚本はエマニュエル・クールコル&イレーヌ・ミュスカリ
原題は『En fanfare』で「ファンファーレ」、英題は『The Marching Band』で「管弦楽団」という意味
物語の舞台は、フランスのムーボン
世界的に著名な指揮者であるティボ・デゾルモ(バンジャマン・ラベルネ)は、ある日の練習にて体調不良で倒れてしまった
診断の結果は急性白血病というもので、治療のためにはドナーが必要だった
妹のローズ(Mathilde Counrol-Rozes)に検査を受けてもらうものの、主治医のロレンス医師(Annette Loecay)からは不適合だと言われ、さらにDNAも兄妹を示すものはなかったと言われてしまった
母(Ludmila Mikael)に問いただすと、生後間も無く養子に出たと言い、さらに弟がいるという
そこでティボは、弟のジミー(ピエール・ロッタン)を訪ねて、田舎町に向かうことになった
ジミーは、ティボとの対面に戸惑いを見せるものの、彼の養母クロディーヌ(クレマンス・マサール)のアドバイスを受けてドナーになることになった
そして半年後、病気を克服したティボは、ジミーの元にお礼を言いに尋ねることになったのである
物語は、ジミーの友人サブリナ(サラ・スコ)の提言によって、ティボがジミーを教えることになり、その指導風景が描かれていく
ジミーは絶対音感の持ち主で、それは遺伝的なものではなく、幼少期の父の影響だった
彼の秘密の部屋にはびっしりと名盤がコレクションされていて、音楽に関する造詣も深かった
ティボはジミーに才能があると感じていて、プロ仕様のトロンボーンを贈ったりするのだが、彼は勘違いをして、リールにあるオーケストラのオーディションを受けてしまう
そこでレベルの差を見せつけられたジミーは塞ぎ込むようになり、そのマインドを引きずったままコンクールを迎えてしまい、そこで大失態を演じてしまうのである
ジミーは兄の存在を感じて、自分の今の境遇を恥じていく
そして「何でもできる」という言葉を鵜呑みにして無謀な挑戦をしていく
彼自身は変わりたい、現状を変えたいと焦るのだが、努力の階段を知っているティボの目線とは違った景色を見ている
ジミーは境遇を「当たりくじ」と言ってしまうのだが、そう思わざるを得ない日常もある
それらの突破口として「ボレロ」が登場するのだが、それは意外な形で観客の耳に届くことになるのである
映画は、エンドロール後に曲がぶつ切りになってしまうのだが、これが意図的なのかどうかはわからない
だが、ティボの予後とジミーの未来を考えるならば、そこには予期せぬ意図があるように思える
それは、白血病の予後不良として描かれるティボは、真のアンコールの途中で倒れてしまったのではないか、という懸念である
「ボレロ」が飛び入り参加のワランコール炭坑楽団の送辞であり、ラストの楽曲はティボのアンサーにも思える
そうして紡がれた楽曲は予期せぬところで終わりを遂げてしまうことを考えると、深読みをせざるを得ないのではないだろうか
いずれにせよ、そのような意図があろうがなかろうが余韻を壊すというのは現実に起こっている
工場の問題に関しても、ティボがテレビへの出演をしたことを機に市長側が強硬策に出たようにも思えてくる
結局のところ、ジミーはこれまでの生活を一新する必要があり、それもティボを頼らないという覚悟が必要となっていた
サブリナとの新しい生活を始めるとしても、彼には相応の覚悟が必要となっていて、そういった現実的なものへの回帰というものを強いているように感じた
なので、後味の悪さというものには、何らかの意味があったのかなと思った
