「テーマは面白い、サスペンスとしては…」俺ではない炎上 うにまるさんの映画レビュー(感想・評価)
テーマは面白い、サスペンスとしては…
この映画を通して何を伝えたいかは非常に明快で、かつ賛同できる。
不確定なはずの情報を勝手に事実だと決めつけて拡散する危険性が、主演陣の素晴らしい演技で時にコミカルに、時にシリアスに伝わってくる。
さらに、若者世代の根底に溢れる「自分は悪くない関係ない。誰かのしでかしたことのシワ寄せに苦しんでいる。」というどこか無責任・他責・被害者意識に警鐘を鳴らすと同時に、「仕事では頼られる存在で、家族も疎かにしなかった」と断言して自分を客観視できない40代以上の独善さにも一石を投じる良映画だ。
最後に阿部寛一家のそれそれが「悪かったのは自分だ」と認めるのは、ともすれば個人の主義主張が尊重されすぎた教育とSNSで肥大化した自己承認欲求に満ちた現代では相当ハードルの高いことではあるだろうが、ぜひそうあって欲しいという制作者の願いだろう。
観て決して損はないはず。
ただ、テーマの素晴らしさにサスペンス映画としての出来栄えが追いついてないのは残念。
どんでん返しと言うか、色々なミスリードの手練手管で結末に導くテクニックは素直に感心したんだが、全く腑に落ちない部分がいかんせん多すぎた。
①犯人の動機
まずなんと言ってもここの掘り下げがすごく浅いせいで犯人がサイコパスっぽくなってしまっていたために「犯行の裏にある動機や背景を作り込まずに済む」という制作側のズルさがチラついてしまった。
サイコパス野郎を犯人にするのなら、犯行の背景をよっぽど深く掘り下げなきゃだめなのに、この映画はそこがあまりうまくなかった。
②犯行の方法
これが本当に説明不足でスッキリしない。家に忍び込んで家のwifiルーターからネットに接続してSNSにアップしてたって、具体的にどうやって忍び込んだのか?
2人目の遺体はいつ、どうやって家の敷地内の倉庫に運んだの?阿部寛が片手では持ち上げられない描写があったくらい重いものを、誰にも気づかれずに?
③登場人物の行動
阿部寛が、自分の置かれている状況に気づいて思わず逃げる…というのはまぁ分からなくもない。周囲の誰も彼もが自分を犯人だと決めつけて追ってくるし、見つけたとなればスマホで撮影してくる状況なら、突発的に逃げたくもなるのだろう。
ただ、芦田愛菜ちゃんはどうなのか??
時間軸のミスリードで分かりにくいが、犯人が誰なのか推測できてるなら君はすぐ警察行くべきでは?
なんでリツイートした人を頼ってお父さんを探そうとする?
この辺は、どんでん返しの結末を見終わってから生じる疑問なので、映画を見終わって全然スッキリしなかった。(もしかしたら自分が何か見落としている可能性はあります)。
なお、全編を通して説教臭さを拭えない部分があり、特に芦田愛菜ちゃんの「お前が諸悪の根源」云々のくだりは台詞回しも含めて大仰で白けてしまったが、映画終わったあとよく考えたら「この映画を観てほしい世代にとっては、これくらいストレートに言葉で言わないと伝わらないのかも」と思い直した。
と、良くないところも色々書いてしまったけど、映画館で2000円出して観る価値はあると感じました。
