「89点/☆3.9」俺ではない炎上 映画感想ドリーチャンネルさんの映画レビュー(感想・評価)
89点/☆3.9
『六人の嘘つきな大学生』で知られる浅倉秋成の同名小説を『AWAKE』の山田篤宏監督が映画化した炎上サスペンス。
SNSが日常を支配する時代に「冤罪」と「炎上」という現代人が誰しも直面しうる恐怖を描いた作品。
主人公を演じるのは『ショウタイムセブン』『キャンドルスティック』に続き今年3本目の主演となる阿部寛。これまで数々の作品で圧倒的な存在感を示してきた彼だが、本作で挑むのはヒーローとは程遠い、ごく平凡なサラリーマン。
突然SNS上で「殺人犯」に仕立て上げられ、必死に「俺ではない」と訴えても誰にも信じてもらえない孤独な男を、迫真の演技で体現する。
山縣泰介(阿部寛)はハウスメーカーの営業マン。妻(夏川結衣)と穏やかな日常を送っていたが、ある日、自分のものとされるSNSから女子大生の遺体画像が拡散され、一気に炎上の渦中へ。会社も家庭も崩壊し、匿名の群衆の暴走に追い詰められ、ついには逃亡を余儀なくされる。ネット上の火種が、現実の生活を容赦なく焼き尽くしていく恐怖が息苦しいほどに迫ってくる。
物語を加速させるのは、拡散力を持つ大学生インフルエンサー・初羽馬(藤原大祐)の軽率な発信。取引先の若手社員・青江(長尾謙杜)は山縣に怒りを募らせている。信頼を置いている部下や同僚も騒動によって誰も近寄らない。妻を演じる夏川結衣は夫を信じたい気持ちと疑念の間で揺れ動く。そして彼を執拗に追う謎多き女子大生サクラ(芦田愛菜)の存在が、物語を思わぬ方向へと転換させる。
89点/☆3.9
序盤はコメディタッチで『テルマエ・ロマエ』を思わせる阿部寛の顔芸や体を張ったシーンもあり、思わず笑ってしまう。しかし物語が進むにつれ、山縣の愚かさと孤独さが浮彫になっていく。
次第に真犯人は誰なのかというミステリー要素が強まり、終盤は家族との再生へと向かうヒューマンドラマへ。サスペンス、コメディ、ミステリー、家族劇と、ジャンルを乗り継ぐような展開は大胆であり、賛否を呼ぶところだろう。
ただし「なぜ濡れ衣を着せられたのか」という本筋のミステリー部分はやや弱く、真犯人の動機や存在感は物足りなさも残る。
だが本作が本当に描きたかったのは「犯人探し」ではなく、炎上を通じて主人公が自分自身の愚かさや過去の過ちと向き合い、家族との絆を取り戻す物語。
娘との関係、妻との距離感、日常の中で見過ごしてきた思いやりの欠如。それらがすべて今の事態の根底にあることを、山縣は痛感させられる。
彼自身が抱えていた過ちが暴かれていく過程は、まるで人間そのものの愚かさを浮き彫りにしているようでもあった。
「誰が悪いのか」軽率な発信者か、それを拡散した者か、止めようとしなかった者か、ただ傍観していた者か。あるいは彼自身か。小さな火種が雪だるま式に膨らみ、誰も止められなくなるSNS社会の恐ろしさが、リアルな迫力で描かれる。
特に終盤の彼の過ちが明るみになってからの怒涛の展開は見応え十分。
謎の女子大生のサクラの鬼気迫る想いを体現した芦田愛菜の演技も記憶に残る。
本作が本当に射抜いているのは「真犯人は誰か」ではなく、「私たちはなぜこんなにも簡単に他者を裁いてしまうのか」という問いである。
阿部寛の体を張った熱演と若手俳優たちとの化学反応から生まれる緊張の連続。
SNSの危うさを描きつつ、最終的には家族の存在の大きさに気づいた心温まる再生の物語。
スリルと家族愛の二面性を持った炎上エンターテイメント。
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