「コメディとしても、ミステリーとしても、中途半端て弾けない」俺ではない炎上 tomatoさんの映画レビュー(感想・評価)
コメディとしても、ミステリーとしても、中途半端て弾けない
身に覚えがないのに殺人犯扱いされ、個人情報を晒される主人公の理不尽な姿にしても、不確実な情報を鵜呑みにして、独善的な正義で個人を糾弾するネット民達の無責任な姿にしても、どこかステレオタイプで、特段、目新しさを感じることはなかった。
ただ、自分が、無意識のうちに他人に不愉快な思いをさせていたり、自覚がないのに他人から嫌われていたことを、始めて知った主人公の姿を見ていると、「自分もそうかもしれない」と思われて、何だか身につまされてしまった。おそらく、主人公は、「察しが悪い」と語る妻の本音にも気付いていないのだろう。
序盤は、そんな主人公が巻き込まれる騒動に、「どうなるのだろう?」と引き込まれるが、主人公が、自宅の物置で死体を発見した時に、警察に通報せずに逃げる様子には、「逃げたら、益々疑われるのに」と大きな違和感を覚えざるを得なかった。
主人公が、「アカウントは削除できない」と言われただけで、警察を信用できなくなったとは考えにくいし、差出人不明の怪しげな手紙に「逃げ切ってほしい」と書かれていたことを、鵜呑みにするほど思慮が浅いとも思えない。
主人公が「逃亡者」になるところは、ストーリー上、最も重要な展開であると言っても過言ではないのだが、そこのところに説得力が感じられないのは、物語として致命的なのではないだろうか?
同様に、主人公が、座標(緯度・経度)を調べるためにスマホを借りたはずなのに、エゴサばかりして、ちっともそれを調べなかったり、男子小学生が、祖母が目撃した怪しい男のことや、その男が落としたメモのことを、警察官の父親と共有しなかったり、警察が、何の裏付けもないのに、主人公のことを殺人犯だと決めつけたり、女子大生やコンテナハウスの販売員が、いとも簡単に主人公の居場所を突き止めたりと、ミステリーとして、杜撰でお粗末だと感じられるところが少なくなかったのも気になった。
「誰が真犯人なのか?」という謎解きにしても、主人公の娘が、物置に閉じ込められた時点で、彼女が事件に関与していることが分かるのだが、小学生の女の子が大人の女性を何人も殺すことは無理だろうから、消去法によって、犯人が1人に絞られてしまう。
ただ、パンフレットの文言を修正するように言われたことが、犯人が主人公を陥れた理由だとすると、動機として、余りにも貧弱なのではないかといぶかっていると、女子小学生と女子大生が同一人物だったという、時間に関する「仕掛け」が明らかになって、ここは、素直に驚かされた。
その一方で、こうした「仕掛け」には、犯行に至る犯人のバックグラウンドが理解できたり、観客を幻惑したりといった効果があると認められるものの、犯人探しのミステリーとしては、本当に必要だったのだろうかという疑問も残る。
犯人や警察が「自分は悪くない」と思い込む一方で、主人公の一家の面々や、最初に犯人の投稿をリツイートした男子大学生が、「自分が悪かった」と反省するラストには、仄かな希望が感じられるものの、度々描かれる「今どきの若いものは」的な若年層批判は鼻につくし、前半の軽妙でコミカルな味わいが、後半になって影を潜め、暗くて重たい話になってしまったことは、残念に思えてならなかった。

