か「」く「」し「」ご「」と「 : インタビュー
奥平大兼×出口夏希、まばゆいほどの輝きを放つ青春映画で築き上げた“初めての関係性”

「君の膵臓をたべたい」で知られる作家・住野よる氏の小説を映画化した『か「」く「」し「」ご「」と「』(5月30日公開)で主演を務めた奥平大兼と出口夏希。彼らが演じたのは、恋や友情、自分自身の弱さに向き合いながら日々を送る高校生だ。
悩み、もがく姿も美しい――そう感じさせてくれるような青春劇に命を吹き込み、まばゆいほどの輝きを放つ。
佐野晶哉、菊池日菜子、早瀬憩ら共演者と過ごした期間は、「本当に高校生活を送っているようだった」と愛着を寄せた奥平&出口。話題作への出演を重ね、俳優界において存在感を増している2人が本作の撮影を振り返ると共に、「楽しい」という気持ちが原動力となる仕事への考え方など、等身大の思いを語り合った。(取材・文/成田おり枝、撮影/間庭裕基)
【『か「」く「」し「」ご「」と「』概要】

(C)2025「か『』く『』し『』ご『』と『」製作委員会
自分に自信が持てない京(奥平)、底抜けに明るく、ヒロインよりもヒーローになりたいと願う三木直子・通称ミッキー(出口)、予測不能な言動でつかめない存在の黒田文・通称パラ(菊池)、体育会系でいつも明るく笑顔な人気者・高崎博文・通称ヅカ(佐野)、内気で控えめな性格で、ある日突然学校に来なくなる宮里望愛・通称エル(早瀬)。“少しだけ人の気持ちが見えてしまう”という能力をそれぞれ隠し持つ高校生の男女5人が織りなす、もどかしくも切ない日々を描く。

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●出口夏希の圧倒的ヒロイン感に惚れ惚れ!住野よるから届いた手紙が役作りの支えに
――誰にも言えない秘密を抱えている5人の関わり合いから、青春時代の輝きが溢れ出すような作品です。「赤羽骨子のボディガード」以来の共演となったおふたりですが、京とミッキーとしてご一緒した感想を教えてください。
出口:前回ご一緒させていただいた時は、あまりお話する機会がなくて。ドラマや映画の印象もあって、奥平さんはそれこそ京くんのように、物静かであまり喋らない、無口なタイプなのかなと思っていました。
でも実はものすごく明るくて、元気だし、面白いし、京くんとはまったく違うタイプの方で。それでいて、顔の表情や仕草ひとつからも京くんがどう感じているのか伝わってくるようなお芝居をされるので、やっぱりすごいなと思いました。
奥平:そんな風に言ってもらえてうれしいです。たしかに京くんと僕とでは、真逆かもしれません。京くんは、近くにいる相手がシャンプーを変えた時に匂いで気づくけれど、僕は絶対に無理だしね(笑)。でも京くんの感じている悩みや葛藤は、自分にとって思い当たるものもあります。役作りでは、原作を読みながら京くんの気持ちを想像していました。


――出口さんがおっしゃったように、奥平さん演じる京からは、ちょっとした仕草や相手に投げかける視線などからも彼の誠実さや優しさが伝わってきます。京を演じる上で大事にされたのは、どのようなことでしょうか。
奥平:僕たち5人、全員が原作者の住野先生からお手紙をいただいたんです。演じる上でも、その手紙が大きな支えになりました。
――出口さんのミッキーも、ものすごいハマり役だと感じました。京として対峙してみた印象はいかがでしたか。
奥平:ものすごくハマっていましたよね!でも撮影の始まりの頃は、人見知りしている感じがあって。
出口:そうなんです!人見知りなんです(笑)。
奥平:みんなと仲を深めていくことで、だんだん素顔が見えてきて。そうすると、本当にミッキーのような方なんだなと実感しました。だからこそ僕も、自然に京としてミッキーの輝きを感じられたように思います。
劇中で、ミッキーが「私、何か変わったと思わない?」とヅカ(佐野晶哉)と京に詰め寄ってくるシーンがあります。そこで「いや、わからない」というふたりに対して、ミッキーは「知らない!」とプイッと去っていくんですが、その怒り方にもすごくヒロイン感があって。やっぱり、ミッキーにぴったりだなと思いました。
出口:そのシーンは、どうすればミッキーが鬱陶しいように見えないかなと悩んだシーンでもあって。そう見えていたとしたら、よかった!安心しました。脚本を読んだ時には、ミッキーのようなキラキラしている子を演じさせてもらえるなんてすごくうれしい気持ちでいっぱいでした。

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――出口さんに住野先生から届いた手紙には、どのようなことが書いてあったのでしょうか。
出口:「バカ可愛いミッキーを演じてください」と書いてありました。その言葉に背中を押していただいて、ミッキーを演じる上ではできるだけ笑顔でいようと心がけるようにして。悩んでいる時、考えている時など、いろいろな笑顔のパターンをお芝居で伝えたいなと思っていました。
ありがたかったのが、現場の居心地がとてもよかったことです。その場の空気を大事にしながら、仕草などあまり決め込まずに思うままに動いていました。ポーンとベッドに飛び込む感じも、普段の私みたいです(笑)。

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●「本当に高校生活を送っているよう」スクリーンに刻まれた、5人のリアルな空気感
――対峙する相手やその場の空気に素直に反応することが、ミッキーの躍動感につながっているのかもしれません。
出口:5人で一緒にいる空気感が、そうさせてくれたと思います。このメンバーで本当に高校活を送っているような気持ちになってきていました。
奥平:本当にそうだよね。撮影の合間でも、5人での立ち位置が自然と決まってきていたよね。(佐野)晶哉と(菊池)日菜子ちゃんが明るくて、いつもみんなを笑わせてくれたり。
出口:(早瀬)憩ちゃんはそっとそのそばにいて、私は笑いながらみんなを見ていたり。
奥平:役柄のままだよね。カメラがまわっていても、まわっていなくても大差がない。その空気のまま本番に入っていく感じがあって、ものすごく居心地がよかったです。
出口:特に話していない時間があっても、それが気まずくないという感じもあって。日菜子ちゃん演じるパラとミッキーが体育館にいるシーンでは、セッティング中もふたりでずっと一緒に座っていたんです。会話を交わしていなくても「居心地がいい」と感じられた瞬間で、撮影期間の短い間にそんな関係性になれたのは初めてだったので驚きました。
奥平:友達同士でも、そう感じられることって少ないと思う。すごくいい出会いになったのかもしれないね。


――他人と比べて「自分なんて」と引け目を感じてしまう京の心の動きは、共感できる人も多いと感じます。おふたりにとって、自分の弱い部分やコンプレックスに向き合う上で大切にしている考え方があればお聞かせください。
奥平:人って誰でも、弱いところやコンプレックスがひとつはあるものだと思うんです。だからこそ僕は、他人のコンプレックスや弱いところも気にすることがないし、「まあいいか」「こういうのも自分か」と思って受け入れちゃいます。
出口:私は「自分のこういうところはダメだな」と思うと、結構ぐるぐると考えてしまうほうで……。
奥平:そうなんだ!
出口:以前はすごくポジティブだったんです。でも大人になって関わる人が増えてくると、自分のダメなところも見えてきたりして。溜め込んで、溜め込んで、もう考えても何も出てこないなと思ったら、周囲の人に相談するようにしています。誰かに話してみることってとても大事なことで、言葉にすることで自分ではわからなかったことや、希望のようなものが見えてくることもあるなと感じています。

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――たしかに本作の5人を見ていても、言葉にすることの大切さが伝わります。高校生として進路や将来に悩む姿も映し出されますが、おふたりが今の道に進みたいと心に決めた瞬間はありますか。
奥平:僕はデビュー作となった映画「MOTHER マザー」で、「お芝居ってすごく楽しいものなんだ」と実感することができました。当時はまだ高校1年生で、将来は何か自分の好きなことができたらいいなとデザインの専門学校に行こうかなと考えたりもしていましたが、「MOTHER マザー」に出たことで役者業を続けていきたいなと思いました。それから「楽しい」という気持ちがずっと続いていて、ありがたいことにこうしていろいろな作品と出会うことができています。

――当時インタビューでお話を伺った際、「MOTHER マザー」で母親役を演じた長澤まさみさんからビンタをされるシーンで、「本当にビンタされると思っていなくて。台本には“泣く”と書いてはいなかったけれど、叩かれた痛みやお母さんの言葉から、お母さんの気持ちがじわじわと伝わってきて、涙が出てきてしまった」と語っていました。
奥平:そうでした!懐かしいな…。そうやって相手の方とお芝居をすることで、自分では知らないうちに涙や想像もしていなかった感情が出てきたりするのは、とても面白いことだなと思います。そう感じさせてくれた大森立嗣監督と長澤さんとの出会いは、僕にとって本当に大きなものでした。

出口:私は高校に入ってからバイトを始めて、その頃は「このままバイトをして、結婚をして、主婦になって……という人生を送るのかな」と思っていました。でもスカウトしていただいたことをきっかけにこのお仕事を始めて、気づけば7年目に突入しました。人生、何が起こるかわからないものですね。
私も奥平くんと同じように、「楽しい」を続けてきたことで今がある気がしています。俳優さんのお仕事では悩むこともたくさんありますし、逃げたくなるような時もありますが、やっぱり楽しいなと感じる瞬間がたくさんあって。もし進路で悩んでいる人がいるとしたら、「自分がしっくりとくるものを、自分で選ぶ」ということを大切にするといいのかなと思います。最終的に自分が選んだのならば、失敗したとしても「私が選んだんだ」と思えますから。
奥平:将来、何をやっていけばいいんだろうと悩むこともあるかもしれませんが、「人生、何とかなる」と思うことも大事なのかなと。僕が楽観主義だからかもしれませんが、楽しいと思うことに従っていけば、きっと何かが見つかったりするものなのかなと感じています。
