「人生を振り返る最後の旅」TOKYOタクシー みかずきさんの映画レビュー(感想・評価)
人生を振り返る最後の旅
94歳の山田洋次監督が日本中に優しさと感動というクリスマスプレゼントを届けてくれた。作品の起点である柴又は、山田監督作品・男はつらいよの舞台であり監督の特別な想いを感じる。その男はつらいよで主人公の妹さくら役・倍賞千恵子と山田監督がタッグを組んだ作品ならば良作だろうと確信して鑑賞した。予想を超える作品だった。昭和の残り香がふっと漂い、気づけば涙が滲むような人間ドラマだった。
個人タクシーの運転手・宇佐美浩二(木村拓哉)は85歳の高野すみれ(倍賞千恵子)を東京の柴又から神奈川の葉山にある高齢者施設まで送ることになる。すみれは見納めに東京の思い出の場所に行きたいと言い出し、東京各所を巡ることになる。そこで二人は徐々に距離を縮めていく。
タクシーでの浩二とすみれの会話劇が中心だが、昭和史を織り込むことで、昭和という激動の時代にすみれの人生を重ね、すみれの波乱の自分史を観ている感覚に陥る。また、すみれが心に秘めたことを徐々に開放し、過去から解放されるプロセスが極めて自然で無理がない。倍賞千恵子の語り口は演技を超えて、すみれそのものの人生を感じさせる。彼女は台詞よりも間で人生を語る。その沈黙が心に沁みる。
浩二役の木村拓哉も従来の木村色を捨て去りすみれの聞き役に徹している。自分の今をすみれに吐露することで、すみれの閉ざされた心を徐々に開いていく。新境地の素直な演技で倍賞千恵子を好アシストしている。
すみれの若い頃を演じる蒼井優は持ち味を活かした演技ですみれを巧演している。実写映画出演は久し振りだが、ブランクを感じさせない迫力ある演技で、すみれの過去の愛、憎悪、怒りを赤裸々に表現し、今のすみれにつないでいく。
ラストはある程度予測できたが、それでも胸が熱くなる。なぜだろう。それは、演者たちがそれぞれの役柄を演じるのではなく、倍賞千恵子、木村拓哉ではなく、今のすみれ、浩二として生きている姿を観ている感覚があったからだろう。
味わい深い作品だった。山田洋二監督94歳、倍賞千恵子89歳。命ある限り銀幕で輝き続けてほしい。そう願わずにはいられない。
共感ありがとうございます!
本作は山田洋次監督の90本目の作品だそうです。映画が娯楽として地上波テレビより勝っていた時代があり、年間2~3本製作していたとしてもこの数は驚異的の一言に尽きます。大林宣彦監督も亡くなる直前まで製作の意欲を絶やさずに現役を続けていたので、山田洋次監督にも気持ちを衰えさせずに、人間味のある作品の第一人者として走り続けて欲しいです。
映画チケットがいつでも1,500円!
詳細は遷移先をご確認ください。

