「怖くはない…けど大好き。」事故物件ゾク 恐い間取り 鴻さんの映画レビュー(感想・評価)
怖くはない…けど大好き。
大前提として私はホラーが大の苦手だ。リングやシックスセンスくらいは見たことあるが、背筋の続々や鳥肌が立つ感覚や過剰に大きい音も、答えのない不条理な結末も好きになれない。
反面、サスペンスが大好物でグロは全然大丈夫なのだが、私は人間より得体の知れないものが怖いタイプらしい。
ただ、この映画においては事前CMがポップ過ぎて、もしかして中身空っぽの子供向けアイドル映画か?私が一番嫌いなジャンルだったらどうしよう…。という不安も抱きながら、好きな出演者目当てに映画館に足を運んだ。
内容は、私の予想のどちらともかなり違うものだった。怖くもないし、空っぽでもない。なんだかホラーの皮を被った違うジャンルの映画、まるで…ティーン向けのコメディ青春群像劇?を観終わったのような感覚で映画館を後にした。鼻歌を歌い、帰りにケーキを買って帰ろうと考えながら。
主人公のヤヒロは30も近いのに、今からタレントになりたいと地方から出てきた野暮ったい印象の青年だ。劇中でもその歳で、しかも今の時代にタレント志望??とみんなに変な顔をされるが、本人はなんだかずっとふわふわ浮世離れしている雰囲気。映画の全体の印象も主人公の性格とリンクして平和的でふわふわ、やっぱりCMと同じくポップさが随所にある。人は死なないし、グロや大きな音も必要最低限だ。
事故物件を紹介され、その事故内容とちゃんとした清掃も修繕も入ってないと聞いたのに、ヤヒロはごく自然に首つりかあった場所のすぐ横に布団を敷いて眠ってしまう。すごい度胸だ。全く怖がらな過ぎて面白くなってしまった。初日から霊に襲われるが、特に寝不足だったりやつれることもなく元気に仕事に出発。いい感じになった女性も何の説明もせず、関係が薄い内にすぐいわくのある部屋に入れてしまう。ヤヒロ…。なんか面白い。
最初は薄っぺらいのかとも思ったが、究極に情緒が安定しているのだと思う。
人間に親切にするように霊にも同情してガンガン中に入り込んでいってしまう。後を引かないので、スピーディに物件を渡り歩く。
この話は実話に基づいていて、モデルとなった人物がいるらしい。鑑賞後にその松原氏を見たが本当に映画のヤヒロと似た雰囲気があり、究極に明るく40件以上の事故物件を渡り歩いているようだ。なら、この映画はうまく彼を再現できている気がする。ご都合主義でそうなったのでなく、モデルが実際奇人変人なのだからしょうがない。
私がこの映画が好きなのは、日本映画特有のシュールさとポップさがあるからだと思う。元ネタが分からないとずっと?が頭の中を渦巻く、アレだ。?は少ないがずっとあの空気が漂っていた。
リングの中田監督作品とのことで、ホラー大好きで背筋がゾクゾクを期待して見た人は見たら腹が立ってクソ映画と罵りそうだ。だって怖くないから。
子供と一緒に行ったら、ディズニーのホーンテッドマンションくらいの乗りで楽しんでもらえそう。
隣に座ってたマダムは涙して、イケメン美女にうっとりしていたようだ。
そして私は所々にちりばめられた小ネタと、クセが強い人物造詣がずっと笑えて仕方なかった。先がもっと見たい。え、もう終わったの?と。
周りの観客を見渡しながらどんなこと考えてるか妄想をしてしまうのも、なんだか楽しかった。見る人によって視点も感想も全然違う。これも一つの劇場鑑賞の醍醐味だよな、と。
最後に。全てのフラグをきれいに回収してほぼ残さなかったのはさすが中田監督。伏線をバラまいてそのまま終わってしまう映画が一番嫌いだから、スッキリした~!