「観る者の心の形を問う映画」爆弾 てんぞーさんの映画レビュー(感想・評価)
観る者の心の形を問う映画
野生の佐藤二朗が爆弾で無双する話。
物語形式としては警察vs二朗の謎解きバトルで、留置所でヒントを小出しにして警察を走り回らせる系のジャンル映画。あらすじと予告から受けた印象をはるかに超える面白さで非常に満足感が高い。
二郎が都内に爆弾を仕掛けたことを仄めかして警察が翻弄されている内に本当に爆弾が爆発して、のっぴきならない状況へと突入していく序盤の展開はテンポが良くて楽しい。
アキバの日常を破壊する爆発。邦画クオリティにしてはCGも良く出来ている。巻き上がる爆炎、吹っ飛ぶメイドをタイトルバックにして表示される「爆弾」。これはいい。期待値の上がるオープニング。
これ以降は二郎と警察の攻防がノンストップで繰り広げられるし、丁度いいタイミングで爆弾も炸裂していくので見ている間はずっと面白い。
二郎と相対する警察側は染谷将太⇒渡部篤郎⇒山田裕貴と、なかなか豪華に人物が入れ替わっていく。
その中でも渡部篤郎が演じる本庁の刑事は今作の白眉。
中々いけ好かない感じで登場したわりに、その後の二郎との問答の中で人となりが浮かんできて、最終的には観客も心から応援したくなる印象の転換は結構テクニカル。作中で唯一、明確な激憤を表にするシーンにおいては観客もまた「やれ!」「やめて!」の二つの感情で板挟みになる。
その他、正名僕蔵の演じる所轄の課長は今どきフィクションでも珍しいパワハラとモラハラの二刀流で、最後まで褒められる所が1つもないのに妙な愛嬌があって忘れがたい。
全編通しておじさんキャラ達が愛くるしいのは作品の特徴かもしれない。
若者側では、伊藤沙莉と坂東龍汰のコンビが凸凹感が軽妙で良いキャラをしている。
ただ、登場シーンがあざとすぎて「どこかでひどい目に合うんだろうな」という事が丸わかりなのが少しいただけない。登場シーンは多いのだから、初登場でこれ見よがしに印象付ける必要はなかったと思う。
物語の核心は二朗が刑事相手に仕掛けていく「9つの質問で心の形を浮かび上がらせる」という遊び。
爆弾のヒントを出すきっかけにもなっていて、物語を推進していく仕掛けであると共に「心の形を問う」という本作のテーマそのものでもある。
登場人物がどんな心の形をしていて、どんな気持ちでこの事件に関わっていったのかは物語が進行するとともに明確になっていくのだが、二郎の形だけは掴み切れないまま終わった気がする。
大枠は掴めるが、核心までは辿り着けないまま、時間切れ的に幕が下りる。中々後を引くキャラだった。
だって関係なくないですか?という台詞に象徴されるように、作中では折に触れて観る側の心の形を問う場面がある。
無関係な所で見る悲劇はさぞ楽しかろうというメッセージであるが、見ている側としてはぐうの音も出ない正論なのであまり言い返す事はできない。
そのメッセージに重きを置くので、爆発シーンは気合が入っている。OPのアキバ爆破から始まり、中盤は決定的な爆発シーンは見せない演出をしつつ、終盤でまた爆破祭りを展開する緩急の付け方。
爆破で吹っ飛ぶ人々をリアリティというより、スタントの頑張りを魅せる方向で撮っているのは制作側の手心なのかもしれない。
ただ、爆弾で人が吹っ飛ぶ所なんて面白いに決まっているのだから、なかなか卑怯な映画である。
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