「スズキタゴサクの怪物性」爆弾 ありのさんの映画レビュー(感想・評価)
スズキタゴサクの怪物性
スズキを聴取する刑事たちの奮闘、現場で爆破を未然に防ごうとする刑事たちの奔走を描きながら、事件の裏側に隠された現代社会の闇を炙り出していく本格的なエンタメ作品である。
まず、スズキと刑事たちの緊迫感に溢れた心理戦が面白く観れた。映像的に地味になりがちな室内劇を、まるで”なぞなぞ”のような含みを持たせたやり取り、キャストの演技力で上手くカバーしながら飽きなく見せた所は見事だと思う。
中でも、スズキを演じた佐藤二朗の、やり過ぎとも思える怪演は圧倒的で、画面に異様な迫力をもたらしている。人のよさそうな面持ちとは裏腹にどこか狂気を隠し持ったキャラクターというのは、常々この人に抱いていた個人的なイメージなのだが、そのあたりが本作では見事に発揮されていたように思う。
そして、彼と対峙する3人の刑事、染谷将太、渡部篤郎、山田祐貴も夫々にタイプの異なる刑事を演じていて良かったと思う。クールな染谷、冷静沈着なベテラン渡部、飄々としながらも頭が切れる山田。のらりくらりと交わす”したたか”なスズキに翻弄されながら、彼等は事件の真相に迫っていく。
とは言っても、染谷と渡部は言わば前座のようなものであり、真打は山田演じる類家刑事である。後半からいよいよ二人の対決となるのだが、面白いのは刑事と罪人という対極の立場にいながら、二人は決して正反対の人間ではないという所である。ある意味で二人はよく似ている。そして、そのことを類家自身がスズキによって気付かされる…という場面が、個人的にはクライマックスだった。要は最後の一線を超えるかどうか。二人を善と悪に分け隔てるわずかな差はそこだけだと思う。
そして、翻って見ればスズキや類家のように思考する人間は今の世の中には結構いるのではないか…と気付かされる。非常に恐ろしいことであるが、彼等を身近に感じてしまうのもまた事実である。
この取調室のシーンの一方で、映画は爆弾探しに奔走する現場の警察官の姿も描いていく。こちらは伊藤沙莉と坂東龍汰が演じる若い巡査コンビを中心に展開されるが、そのやり取りは動きの少ない取り調べの合間に巧みに挿話されていて上手くメリハリがつけられていると思った。こちらにもドラマチックな展開が用意されていて面白い。
映画は終盤にかけて、いよいよ事件のからくりが解明されていく。途中で幾つかヒントが登場してくるので、ある程度は想定の範囲内であったが、予想外の事実もあった。
例えば、スズキが何故、染谷扮する等々力に執着していたのか分からなかったが、全ての真相を知った後だと溜飲が下がる。
確かに細かく考えると、色々と府に落ちない点もなくはない。それはスズキ自身に謎が多く、それらが劇中で全て解明されていないからである。しかし、そこはそれ。多少のご都合主義を補って余りあるスズキの怪物性が、映画の鑑賞感を忘れがたいものにしている。
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