「人といふ人の心に1人づつ囚人がいて呻く悲しさ」爆弾 栗太郎さんの映画レビュー(感想・評価)
人といふ人の心に1人づつ囚人がいて呻く悲しさ
どうしても、原作を読まないと知ることがない事実や人物設定があるようで。なので、感想は原作と矛盾するかもしれない。それはそれとして。
とにかく最後まで丁々発止の心理戦だった。単なる器物破損の罪で連行されたと思ってたしょぼくれた男スズキタゴサクの言い出す、奇妙な「予言」。彼と対峙しながら心理戦に敗れ去っていく取調べのプロ、巧妙に利用される刑事と警察官。そして「舞台」が野方署でなければいけなかった訳。映画では描き切れない人物描写や事件背景は、たぶんに尺的な問題からなのだろうけど、そのおかげでコイツ(スズキタゴサクはもちろん、伊勢も清宮も)の過去には何があったんだ?という迷宮に、こっちもハマっていく。
スズキタゴサクは、10円ハゲがあったことでいままで散々にイジメを受けていたのだろう。たぶん、直前にきれいに坊主頭に散髪する前は長髪にしていてハゲを隠していたかもしれない。そのコンプレックスから逃れるべく、文学に耽ったのだろう。クイズにして出すヒントにもそうして得たであろう知識がふんだんにあった。だからけしてスズキタゴサクは卑屈で低能なホームレスではない。じゃなければ、仕組まれた爆弾の時間と場所を正確に覚えている知能もないはずだ。そしてそれを抜群のタイミングで晒す話術と度胸も持ち合わせていないはずだ。単独犯なのか石川明日香と共犯なのか、初め石川明日香の関与に気づいたときは「容疑者スズキタゴサクの献身」かと思ったがむしろ石川明日香は利用された側なのか、それは終盤に怒涛の展開を見せてきて、残りの爆弾の存在やスズキタゴサクの正体やら謎を野放しにしたままのラスト。消化不良感。それこそ、この映画の巧妙さである。劇中の警察内部の連中が弄ばれたように、こちらも、慌てふためく世の中をせせら笑うスズキタゴサクの術中ってことだ。
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