「この社会に仕掛けられた「爆弾」。」爆弾 レントさんの映画レビュー(感想・評価)
この社会に仕掛けられた「爆弾」。
この社会に潜む爆弾、それはなにか小さなきっかけが引き金となり起爆装置にスイッチが入ることで人々を恐怖のどん底に突き落とす。
それがいつどのように爆発するのかはわからない。人の中に溜め込まれた鬱積した思い、それにつながる導火線に火がつき凶器が街中で突然振り回されるのか、あるいは地下鉄内で毒ガスが巻かれるのか。
間違いなく言えることはこの社会に住む人間の心の中に溜め込まれた大量の火薬にいつ何時引火して爆発を引き起こすかもしれないという不安が常に存在するということだけだ。
原作は文庫本で500ページほどの作品だが会話劇がメインなので読むのに時間はかからない。
「スズキタゴサク」なる人物と彼が仕掛けたと思われる爆弾に翻弄される人々の姿を描いた群像劇スタイルだが、今回の映画化ではその群像劇スタイルを弱め主要人物に的を絞ったのが功を奏してか、より作品に没入できるようになっている。
原作で一般人視点の役割を担う細野ゆかりは描かれず、また刑事の伊勢の引きこもりの弟の話や等々力の上司の鶴久の娘のくだりもカットされ、原作で描かれた各登場人物の内面の葛藤もバッサリカット。そのおかげで物語がよりスピーディーで畳みかける展開となっている。
個人的にはそれが今回の映画化の成功に繋がったと思う。原作は基本群像劇スタイルなのでどうしても各登場人物の内面が描かれるのはしょうがないがそれが作品全体のテンポを落とす要因になっていた。
そのせいか、この日本ではいまいちリアリティーにかけるであろう史上まれに見る爆弾テロ事件の動機付けが甘いと感じられたり、巡査倖田の行動があまりに無理がありすぎたり、原作で描かれたスズキの台詞にも無駄が多くスズキの小物感の方が目立ち過ぎて、そんな彼に翻弄される警視庁のエリート達が逆にレベルが低く見えたりと、そのように原作を読んでいて感じてしまったいくつかの粗が今回の映画化では一切感じられないほどまさに原作をブラッシュアップさせた見事な映像化と言える。
ちなみに原作の冒頭で刑事の伊勢を「巡査」と記載するミスがある。校閲はどうなっているんだろう。
本作は理想的な原作の映像化作品「羊たちの沈黙」をも彷彿させる。かの作品も原作の枝葉のエピソードはバッサリカットして(クラリスが昆虫学者と付き合う話はまさに不要)、ハンニバルレクターというキャラクターをカリスマ的存在にまで押し上げ、様々な映像的工夫で観客に驚きを与え原作の価値をより高めた見事な映画化だった。本作はそれに匹敵する出来栄えと言える。
原作では無駄なセリフと思えるスズキの台詞をカットすることでスズキをより危険でミステリアスな存在感ある人物に描いているし、彼に翻弄される刑事たちも優秀ながら彼に敗れるのもスズキの知能の高さから致し方ないと思える。倖田の行動にも無理がないように感じられる。とにかくテンポがよく原作の弱点を感じさせない見せ方が実にうまい作品。前作の「キャラクター」を鑑賞した時この監督はなかなかの実力の持ち主だと感じていたので今回の映画化は期待していたがその期待を裏切らない出来だった。
役者陣も原作のイメージ通り、染谷翔太だけは童顔で等々力役にはどうかと思っていたが彼の演技力で違和感を感じさせなかった。
そしてやはりスズキを演じた佐藤次郎であろう。まさに和製ジョーカー(ダークナイト版)を演じた彼の存在感が本作の成功の大きな要因。ハンニバルレクターとジョーカーを足して二ではなく三くらいで割ったようなミステリアスなキャラクターを見事に演じた彼には日本アカデミー主演男優賞を上げたいが「国宝」にすべて持っていかれるんだろうなあ。
日本の最近のエンタメ作品はとても粒ぞろいで観客動員数で洋画が押されてるのもわかる気がする。
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共感バックありがとうございます。
原作との比較とても興味深いです。
映画化への高評価も原作を読まれてるからこそです。
〉心の中に埋め込まれた大量の火薬・・
人間の鬱屈した怒り、
この映画ではエンタメに昇華してしまいましたが、
佐藤二朗の演じるタゴサクには、知らず知らずのうちに
賞賛さえ覚えてしまう、
タゴサクに洗脳された気がします。
レクター博士並みの知能ですね。
邦画の当たり年、というかレベルが凄いですね。
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