劇場公開日 2025年10月31日

「一流の変態」爆弾 セッキーかもめさんの映画レビュー(感想・評価)

4.0 一流の変態

2025年11月1日
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鑑賞方法:映画館

怖い

斬新

ドキドキ

とあるひとりの中年男性(スズキタゴサク)が酒乱により逮捕された。取り調べ中、その男は自分には霊感があると言い出す。そして、10時に秋葉原で何か事件が起きると言う。取り調べを行う刑事は相手にしなかったが、10時ちょうどに秋葉原ラジオ会館で爆発事故が起こった。さらに、次々に起こる爆発事故の予言をし、警察や一般市民は混乱に陥る。この男は一体何者なのか。この事件の犯人はこの男なのか…。

佐藤二朗さんは個性派俳優として有名である。本作では、彼の演技を十二分に堪能することができる。佐藤二朗さんが演じるスズキタゴサクは、一見酒好きな気のいいおっちゃんに見えるが、取り調べが進むにつれて彼の異常性は浮き彫りになる。無差別に爆弾を爆発させ、人を殺傷することに何の罪悪感もない。悪びれるそぶりを見せるがすべてわざとらしい演技である。どんな状況でもある意味安定した精神で訳のわからないことを言い続ける。本物の精神異常者を佐藤二朗さんは演じた。表情や細かな身体の動きなど、本能的に嫌悪感のする演技を骨の髄からしている感じがした。特に印象的だったのは、スズキタゴサクにとって真意に迫る部分の質問を刑事がしたときの反応である。化けの皮が剥がれかけ、本物の怪物が姿を現したような恐怖を感じた。それを佐藤二朗さんは、表情の強ばりや声のトーンのわずかな変化で演じていた。驚くべき演技力である。本作の出来の比重の半分は彼の演技力によるものであると言っても過言でないだろう。

ストーリーの構成も面白い。終始取調室の中で物語は進んでいく。その他の要素は、それに振り回される警察達の動き程度で、余計なものは登場しない。このシンプルな設定も本作の魅力的な部分である。

スズキタゴサクの話術とその話術にハマってしまう刑事とのやり取りを観て、観客はスズキタゴサクの頭の中を2時間観たような気持ちになる。なぜか分からないが、上映時間がどんなに延びてもずっと観ていたい気持ちになった。彼の言葉巧みな話術によるものもあるが、人間として魅力的な部分を持っているように感じた。それは彼がすべての欲望を最大限にして、それ自体に全くブレーキをかけない姿勢によるものかと思う。

本作の製作陣は、今年の傑作映画の「国宝」をライバル視しているらしい。両極端にあるような作品であると思うが、ホンモノという意味ではタメを張れる作品であると思う。そこでは本物の芸者に出会うことができたが、本作では本物の変態に出会うことができる。

セッキーかもめ
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