「97点/☆4.7」爆弾 映画感想ドリーチャンネルさんの映画レビュー(感想・評価)
97点/☆4.7
スズキタゴサクを、何度ぶん殴りたくなったことか。もう数えきれないほど!
とにかく憎たらしい。強烈で、嫌みったらしく、腹の立つ顔がいまだに脳裏に焼きついて離れない。
本作は、昨今の考察ブームを刺激する、謎と駆け引きに特化したミステリーサスペンス。
原作は『このミステリーがすごい!2023年版』で第1位を獲得した、呉勝浩の同名ベストセラー小説。
息もつかせぬ心理戦と、終わらない疑念。東京のどこかで、今にも爆発するかもしれない爆弾。その恐怖を前に、容疑者から一言でも多くのヒントを引き出そうとする刑事たちの執念が、画面を支配する。
動機、目的、資金源、共犯者、そして「スズキタゴサク」とは何者なのか。
謎に次ぐ謎が、観客を翻弄し、息もつけない緊張感を生む。
容疑者の心を抉る質問に屈せず、会話の端々やわずかな仕草から爆弾の手がかりを導き出す。
頭脳をフル回転させるような心理戦が、最後まで観る者を離さない。
今年3本目の映画主演となる山田裕貴ではなく、真の主役はやはり佐藤二朗演じるスズキタゴサクだろう。
スズキタゴサクを体現する佐藤二朗の演技が、とにかくムカつく。間違いなくアカデミー賞にノミネートされるレベルのインパクト(何の権威もないが)強烈なキャラクターを、腹立たしいほどに演じ切る。
相手を見下すような言葉選び、直球の煽り、揺さぶる沈黙。
まるで人の心を弄ぶことそのものを愉しんでいるような、悪魔的な芝居。
無精髭の汚れた顔で、罪悪感も良心もなく、目の前のオモチャを吟味するように笑う。
一度の鑑賞で百回以上、顔面をぶん殴りたくなるに違いない。
これだけ多くの登場人物、切れ味鋭いセリフ、緻密な心理戦、そして張りめぐらされた謎。
それらを137分という長尺で最後まで緊張感を保つのは、容易なことではない。描き切れなかった背景や人物もいるだろう。それでも、原作の圧倒的な構成力と筆力の高さが、随所に滲んでいる。
原作未読の自分を少し恥じ、すぐにでも読みたくなるほど。
今作のハイライトは、渡部篤郎演じる清宮との九つの尻尾。
スズキの不気味な一言をきっかけに始まる、互いの心を暴き合う心理戦。爆発の時が迫るなか、スズキは意味不明な供述を繰り返し、清宮を翻弄する。
冷静を装う清宮も、次第に追い詰められ、自分の中の倫理が音を立てて崩れていく。
「子供が死ななくて良かった」と安堵する清宮に、スズキタゴサクがニヤリと笑う。
その瞬間、彼は自らの歪んだ心の形を直視してしまう。
この一幕だけで、映画の価値は十分にある。
97点/★4.7
原作を知らないまま観ると、怒涛の展開についていけない場面もあるだろう。
まるで倍速で再生される映像のように、情報量が多く、息を整える暇もない。
それでも、このスピード感こそ今まさに起きているような臨場感を生み出している。
物語の深みはやや浅めで、家族の闇や過去にはもっと踏み込んでほしかったのは心残り。
だが、爆破シーンの迫力、飛び散る肉片、加速する展開、そしてスズキタゴサクの悪が見せる異様な魅力。
それらがすべて融合し、観客の内面に潜む暴力性を炙り出していく。
憎たらしい。ムカつく。けれど目が離せない。
佐藤二朗の演技は、まさに怪演という言葉がふさわしい。
スズキタゴサクという存在は、我々と表裏一体なのかもしれない。
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