「まさに「佐藤二朗」劇場だが、ラストの展開には理解が追いつかない」爆弾 tomatoさんの映画レビュー(感想・評価)
まさに「佐藤二朗」劇場だが、ラストの展開には理解が追いつかない
何と言っても、佐藤二朗の怪演ぶりが圧倒的で、彼の強烈な個性がなければ、この映画は成り立たなかったとさえ思われる。
一見すると愚鈍そうだが、高度な知性を内に秘めているようでもあり、卑屈な態度でおちゃらけていたかと思ったら、威圧的な態度で凄みを見せるなど、二律背反の独特なキャラクターは、まさに佐藤二朗の独壇場と言っても良いだろう。
それだけでなく、沈着冷静に取り調べをコントロールしようとしながら、犯人の術中にはまって「心の形」を露わにしてしまう渡部篤郎や、相手からの挑発をかわしつつ、意表を突く切り返しで犯人と渡り合う山田裕貴、あるいは、手柄を上げようとして犯人に取り込まれてしまう寛一郎も、それぞれに個性を発揮していて、彼らと犯人との「言葉による攻防戦」から一瞬たりとも目が離せなくなる。
また、取調室内での息の詰まるような会話劇だけでなく、それと並行して描かれる、外回りの巡査や刑事による捜査の様子も、物語にテンポやアクセントをもたらしていて、その成り行きにグイグイと引き込まれた。
その一方で、ラストの展開については、どうにも理解が追いつかず、置いてきぼりを食らわされる。
夏川結衣が演じる母親は、息子のことを殺してまで、その犯行を止めようとしていたのに、どうして、自分自身が爆弾を持って警察に乗り込むようなことをしたのだろうか?証人である佐藤二朗を爆殺して事件の真相を隠蔽しようとしたり、自暴自棄になって苦しい人生を終わらせようとしたのかもしれないが、自分が爆弾事件の犯人になったら、せっかく立ち直った娘が、再び世間から非難されることになるのではないだろうか?
あるいは、佐藤二朗の犯人にしても、自分自身を真犯人に仕立てることが目的のはずだったのに、どうして夏川結衣が事件に関与していることが分かってしまうようなシナリオを描いたのだろうか?これでは、夏川結衣を庇おうとした佐藤二朗の「想い」が台無しになってしまうし、しかも、始めから、その爆弾を爆発させる気がなかったのてあれば、夏川結衣による爆弾騒動そのものが必要なかったのではないかと思えてならない。
と、頭を悩ませてしまったのだが、よく考えてみれば、スキャンダルを起こして自殺した刑事の息子が事件の黒幕だったのなら、父親は無実の罪を着せられた訳ではないので、息子の動機は「逆恨み」ということになり、あまり同情することも、納得することもできなかった。それどころか、彼が恨みを晴らそうとするのであれば、まず真っ先に、父親のことをマスコミに売ったカウンセラーか、父親のスキャンダルをセンセーショナルに騒ぎ立てたマスコミ関係者を狙おうとするのが自然なのに、いきなり、全都民を標的とした無差別テロを企てるというのは、いくらなんでも思考が飛躍し過ぎているのではないだろうか?
せっかく、俳優陣の迫真の演技と、手に汗握るサスペンスの面白さを堪能できていたのに、最後の最後に、物語のオチに納得することができず、釈然としない気持ちが残ったのは、本当に残念としか思えなかった。
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