劇場公開日 2025年8月15日

「力作ではあるが、それだけに、多くのことが残念に思えてしまう」ChaO tomatoさんの映画レビュー(感想・評価)

2.0 力作ではあるが、それだけに、多くのことが残念に思えてしまう

2025年8月16日
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膨大な作画によって生み出されるアニメーションのダイナミックな動きは見応えがあるし、パステルカラーを基調としたカラフルな色彩設計にも目を奪われる。
その一方で、顔の大きさが不均一なキャラクターデザインは、クセがあり過ぎて、あまり魅力的に感じられなかったし、舞台が20XX年の上海なのに、登場人物の名前がステファンとかジュノーとかチャオだったり、使われている文字が日本語だったりと、余りにも世界観が独特過ぎて、なかなか物語の中に入り込むことができなかった。
物語としても、人魚の王様が、行政組織ではなく、一民間企業と交渉していることには違和感を覚えるし、人間と人魚が友好関係を結ぶことによって、造船会社や人間社会にどのようなメリットがもたらされるのかもよく分からない。そのため、造船会社の社長が、ステファンとチャオの結婚の後押しをしているのは、てっきり、人魚の王様に、スクリューの使用を認めさせるためだとばかり思っていたのだが、逆にエアジェットを導入しようとしていることには驚いたし、マスコミが、どうしてステファンとチャオのことを執拗に追いかけ回すのかも理解できなかった。
人魚のチャオが、水の中では人間の姿をしているのに、陸上では魚の姿になってしまうという逆転現象にも納得できないし、相手に心を許せるようになると、陸上でも人間の姿を維持できるという設定も、いかにも取って付けたようで、説得力が感じられない。
肉屋の店長が、やたらと包丁を振り回すところや、チャオに絡んできた2人組に、ステファンがいきなり殴りかかって、逆にボコボコにされた挙句、チャオが水鉄砲で2人を吹き飛ばすくだりも、暴力的過ぎて笑えないし、チャオが、室内で大量の花火に点火してアパートを破壊したり、ステファンが開発したエアジェットのお披露目式に制御不能のロボットで乗り込んで、式典をメチャクチャにしたりするエピソードも、チャオのお茶目さよりも、「やり過ぎ感」の方が際立ってしまい、まったくと言っていいほど楽しめなかった。
そもそも、船のスクリューによって魚が傷つけられているという問題なんてあまり聞いたことがなく、それだったら、海洋汚染やマイクロプラスチックの問題の方がよっぽど深刻だと思えるし、潜水作業中の妻がスクリューに巻き込まれそうになっているのに、エンジンを停止せず、自分も海に飛び込むという夫の行動は、呆れてしまうほど非常識で、ステファンの両親が命を落とした経緯にも、まったく同情することができなかった。
ラストで、ステファンが、幼い頃の記憶を取り戻す展開もご都合主義的に感じられるし、いくらチャオとの約束を思い出したからと言って、それで、いきなり彼女を愛せるようになるとも思えない。
ラブストーリーとしての物足りなさもさることながら、異文化交流の話としても、異人種間結婚の話としても、あるいは多様性の包摂の話としても、どれも掘り下げ不足の感が否めず、結局、アニメーションとしてのユニークさだけが見どころになってしまっているのは、残念としか言いようがない。

tomato
tomatoさんのコメント
2025年8月22日

そうですね。
「土地のイメージ」ということを考えると、「敢えて狙って」やっているのかもしれませんね。

tomato
Route193さんのコメント
2025年8月22日

暴力的なところがそっちの国ゆえなのかなって思ってしまいました。

Route193
tomatoさんのコメント
2025年8月21日

ありがとうございます。
確かに、無国籍でカオスな雰囲気を作り出したかったのなら、「上海」という固有名詞は必要なかったですよね。

tomato
uzさんのコメント
2025年8月21日

最初から最後まで共感しかありません。
世界観については、国名なんか出さずにファンタジーでよかった気がします。

uz
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