「映画と原作ではクライマックスシーンが異なるが…。」ペリリュー 楽園のゲルニカ ゆうじんさんの映画レビュー(感想・評価)
映画と原作ではクライマックスシーンが異なるが…。
見に行く前から原作未読組と既読組で評価が分かれているのは気になった(私は既読組)。
なるほど、既読組の評価が低い傾向にあるのもうなずける。ストーリーを2時間未満に収めるために、原作で印象に残った重要なエピソードが数々削られて、脇役の扱いがかなり軽くなっているのが気になる。
特に小杉伍長。訳あり感がほんのりほのめかされてはいるが、背景がざっくり省略されているため、田丸や吉敷の米軍投降に協力する動機が原作ほど胸に迫ってこない。当然島民との交流エピソードも丸々カットで、逃亡への協力は手りゅう弾を投げ込むというずさんな形になってしまった(しかも日本軍に死人が出ているし…)。私は小杉伍長のキャラクターが結構好きだったので、この扱いは非常に残念だった。できれば、前後編ぐらいの尺を割いてでも、小杉伍長のエピソードは丁寧に語ってほしかった。
また、米国の映画を偶然見る場面も原作ではストーリーの流れに沿っており、こちらも印象的なシーンになっているのだが、映画だと「なんで米兵の真ん中にいきなり日本人が?」という唐突感があって、もったいなかった。
と、いろいろ気になるシーンがあるのだが、映画全体としては「田丸と吉敷の友情」にフォーカスを当てた作りになっており、単体で見るとしっかり没入できるようになっている。吉敷のラストシーンは原作とはかなり異なる形になっているが、私は映画版の方がスタンダードながら胸に迫るところがあった。
吉敷のラストのセリフ、吉敷の死体を担ぐことで「二人で」米軍に投降できた田丸、(たぶん吉敷の骨が入っている)白木の箱を抱いて「一緒に帰ろう」という田丸。エンドロールの後、いまだに2000人以上の日本兵が日本に帰れていない現状が映し出されたことも相まって、吉敷は命は尽きながらも田丸と一緒に日本に帰れたのだ、という安堵感のようなものを感じた。これは、原作を読んでいたときにはなかった感想だった。
原作がよかったという人は、映画も見てほしいし、映画がよかったという人はぜひ原作も読んでほしい。戦後世代の原作者がこういう形で南方戦線を描き出してくれたことに、敬意を払いたい。
※地元映画館では一か月もしないうちに上映が終わってしまうのが残念。こういう映画こそ、もう少し長く、多くの人に見てもらいたいと思うのだが…。
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