「ただ愛を求めただけなのに」ロザリー sugar breadさんの映画レビュー(感想・評価)
ただ愛を求めただけなのに
ロザリーの前向きな姿が清々しいです。特異な外見を武器に使うのは簡単ではありません。でもアベルを助けたいとの思いから強い意志で前に踏み出します。カフェで立ち振る舞う彼女の表情が活きいきして、観る者の気持ちも高揚します。
もちろん彼女も最初からそうであったわけではなく、おびただしいリストカットの跡が痛々しく映ります。
一方アベルにも変化が訪れます。当初は嫌悪と拒絶、売上が増えたら増えたで男の沽券にかかわるからか怒りをあらわにしていましたが、徐々にロザリーの愛情にほだされ、理解を深めていきます。実は彼も戦争で負った大きな傷が背中にあり、娼館でも服を脱がないぐらいに見た目へのコンプレックスは元々持っていたのです。
その後ロザリーは自分が子供を持てない体であることがわかり、さらに養子をもらうことも世間から阻止されてしまいます。子供がどうしても欲しかった彼女にとっては致命的な出来事です。
少数の理解者を除き、村人の多くは異質な存在への嫌悪を強め、付和雷同的に差別行為に加担していきます。
ロザリーのことをわかっている我々観客は彼ら村人に怒りを覚えますが、果たして理解が不足する状況下でデマや同調圧力に惑わされずに判断出来るかと問われると、自分もあまり自信はありません。フェイク情報が溢れる昨今、本質を自ら見極める努力をしないといけないと改めて痛感しました。
ラストは観客に委ねられましたが、泳げないアベルが飛び込んで抱き合う時、ロザリーの幸せに満ちた笑みが見られた気がしました。
村の娘ジャンヌ役の渡辺直美似のアンナ・ビオレは、冷淡な領主役のバンジャマン・ビオレの実の娘。今回父子共演を果たしました。実の母親は女優のキアラ・マストロヤンニ、ということは祖父母はマストロヤンニとドヌーブのスター家系。確かに目力がありました。