「自ら張り巡らせた蜘蛛の巣の網(ネット)にからめとられる」プロット 殺人設計者 レントさんの映画レビュー(感想・評価)
自ら張り巡らせた蜘蛛の巣の網(ネット)にからめとられる
そのプロットは恐怖のシナリオへと変わる。
まるで因果法則を操り、偶発的な事故を装って標的を意図的に死に至らしめる暗殺グループのメンバーたち。その死を彼らはデザインするという。しかしそんな彼らが「清掃人」と呼ばれる自分たちよりも巨大な組織に追い詰められていく様をスリリングに描く。
直近の「コメント部隊」や「ベテラン2」など、韓国映画でSNS社会を風刺した傑作が連続して公開されている。本作もSNS上の陰謀論や都市伝説に翻弄される現代人を痛烈に風刺した見事なサスペンスに仕上がっている。
主人公のヨンイルたちグループは生き延びるために清掃人の正体を探るが、仲間は次々と殺されていく。やがて互いに疑心暗鬼に陥った彼らは仲間同士で殺し合うまでに。追う者が追われる者に、スリリングに物語が進行する中で、本作はそのサスペンスを描くのと同時にSNS上の陰謀論や都市伝説に翻弄される現代人の姿を痛烈に風刺する。
ヨンイルたちは自分たちでデザインした死をもたらすと言う。しかし彼らよりも強大な組織は彼ら以上に今まで事故を装い人々を死に至らしめてきた。その脅威におびえるメンバーたち。しかし本当に清掃人は実在するのか。
確かに自分たちのような人間がいるのならその上を行く組織がいてもおかしくはない。現実に起きてる事故はすべて清掃人によりデザインされた死であるという考えに彼らは徐々にとらわれていく。
それはけして殺人事件とは検知されない。自分たちもそのようにして闇に葬られてしまうのではないか。自分たちが作り上げてきた同じシステムで自分たちの命も奪われる恐怖に襲われる彼ら。すべての起きた死亡事故が清掃人によるものだと思えて仕方がない。
ヨンイルが清掃人のメンバーと目を付けた保険会社の社員。彼らの話す言葉、被保険者は標的、保険契約者は依頼人、処理は殺害、彼らが話すそれらが全て清掃人が使用する隠語だと思い込んだヨンイル。もはや自分の命を守るためには彼を先に抹殺しなければ。
しかし彼は清掃員ではなかった。自分は見当違いをしていたのか。仲間をすべて失ったヨンイルは身を守るために警察に自首してすべてを告白する。
自分たちが死をデザインしてきたこと、そして自分たちよりも強大な組織がいて過去に起きた死亡事故はすべて清掃人によるものだと。しかし、警察は信じない。そんな陰謀論をネットでまき散らす連中が後を絶たず我々も迷惑しているとして相手にもしてくれない。
肩を落として警察を後にするヨンイル。しかしその捜査官の手にはヨンイルの部屋にあったチェスの駒が握られていた。
本当に清掃人は都市伝説なのか。死がデザインされているというのはただの陰謀論なのか。もとはといえば仲間のチャンヌンが離れていくのを防ぐためにヨンイルが自分で清掃人という都市伝説を作り出したのではなかったのか。
自分のデザインでチャンヌンを殺したはず。交通事故に見せかけて。しかしそれは本当に自分がデザインしたものだったのか。それはただの不幸な交通事故でしかなかったのではないか。
自分で作りだした陰謀論に自分ではまってしまったのか。今までしてきたこともただの偶発的な事故でしかなくて、それを自分たちがデザインしたのだと思い込んでいただけではないのか。もはや何が現実で何が虚構なのか。ヨンイルはもはや分からなくなっていた。
この世に起きる死亡事故は果たしてすべてがデザインされたものなのか、あるいはそれは陰謀論に過ぎないのか。それとも真実をひた隠すために陰謀論だと思い込ませようとしているのだろうか。何が真実で何が噓なのか。
現実とSNS上にあふれる現実まがいのもの。いったい何が真実なのか。見えるものしか信じない、現実に自分の目で見たものしか信じない。それでいいはずだが、自分の目で見ているものは果たしてそれは現実のものか、はたまた仮想のものか。
チャンヌンは普通の世界に暮らしたいと言ってグループから離れた。彼の暮らしたいという普通の世界とは目に見えるものに噓偽りが混じることのない世界だったのではないだろうか。
もとはといえばヨンイルが仲間チャンヌンつなぎとめるために作りだした清掃人という都市伝説、しかしその存在は次第にただの都市伝説ではなく、彼らを恐怖で支配してゆく。それを作り出したヨンイルでさえ現実と妄想の違いが判らなくなっていく。このヨンイルたちの姿はまさにネットの陰謀論に翻弄される現代人の姿そのものだ。自分たちの作り出した噓に翻弄される人類、共同幻想の中で生きる人類はどこへ向かうのか。
高齢のメンバーの言う見えるものしか信じないという言葉や、これは俺たちが創り出した世界だという言葉が印象的。自分で見たわけでもないSNS上での真偽不明な情報に踊らされる現代人、そんな社会を創り出したのは自分たち自身だということ。そんな現実を痛烈に皮肉った見事な社会派サスペンスだった。
惜しむらくはカン・ドンウォン氏のアクションがもう少し見たかったかな。
本作は偶発的な事故を装い人の死をつかさどるような秘密組織がこの社会に実在するのか、それともそれはただの陰謀論に過ぎないのか、あえて明らかにせずに幕を引くところも観客の想像にゆだねるという点でも秀逸である。現実とSNS上の情報の何を信じればいいのかわからなくなっている現代人に問いかける本作は「コメント部隊」同様、このネットの時代に警鐘を鳴らす作品である。
鑑賞前の本サイトでの低評価が気になっていたが、やはり映画は自分の目で見ないとわからない。あらためてSNS上での情報に翻弄されてはならないと思い知らされた。でも役に立つときもあるけど。
評価は本当は星4のところここでの評価があまりに低いためバランスを保つために星5とした。
