「ロバート・エガースが吸血鬼の始祖を新蘇生させるのは“神の摂理”だった」ノスフェラトゥ 近大さんの映画レビュー(感想・評価)
ロバート・エガースが吸血鬼の始祖を新蘇生させるのは“神の摂理”だった
ロバート・エガース監督の勢いが止まらない。
『ウィッチ』で鮮烈なデビュー。個人的に超インパクトの『ライトハウス』。『ノースマン』も意欲作。
どちらかと言うとビジュ爆発のアート系の印象だが、ここに来て興行的にも当ててきた。
本作は世界興収1億8000万ドル超えのヒット。
また一つキャリアアップさせたエガースが挑んだのは、100年以上も前の1922年にドイツで作られた吸血鬼映画の古典『吸血鬼ノスフェラトゥ』のリメイク。
自身も多大な影響を受けたらしく、何だかピーター・ジャクソンが『キング・コング』をリメイクした時と通じるものを感じ、密かに期待していた。
現ホラー/スリラーの鬼才が蘇らせた吸血鬼の始祖の怪奇と耽美な世界に酔いしれた。
1922年のオリジナルとヴェルナー・ヘルツォークによる1978年の最初のリメイク版は昔見た事あり。どちらも印象的だが、ぶっちゃけ1922年版の製作舞台裏を仰天設定で描いた『シャドウ・オブ・ヴァンパイア』の方がインパクトあり過ぎて…。
話はほぼ踏襲。と言うかオリジナル自体、ブラム・ストーカーの『吸血鬼ドラキュラ』を非公式に翻案したもの。要は、『荒野の用心棒』なのである。
お馴染みの話って、客観的に見るとツッコミ所や失笑所もあり。ノスフェラトゥは立派なストーカー。トーマスを騙して署名させ、ちゃっかり妻エレンからのロケットを盗む。重い腰を上げて現れて、ペストも流行させて大迷惑。求めた女の血を夢中で吸っている余り、朝になっている事に気付かず、陽光を浴びて御陀仏。閣下、お戯れを!(だから『レスリー・ニールセンのドラキュラ』なんて作られた…?)
そこをエガースは、呪われし運命、おぞましき愛、自己犠牲などを強調。怪奇色の強かったオリジナルに悲劇性を濃くし、独自視点で新構築した。
ビジュアル面は期待に違わず。
ヘルツォーク版はくっきりとしたカラーだったが、本作は所々モノクロを感じさせる色調。これがオリジナルへのオマージュやゴシック感を際立たせる。
壁やカーテンに浮かぶノスフェラトゥの影の演出も雰囲気抜群。サイレントでもあったオリジナルに対し、本作は音でも聞かせる。
オスカーにノミネートされた映像・美術・衣装・メイクは言うまでもなく。
殺人ピエロから吸血鬼になったビル・スカルスガルド、エガース作品常連ウィレム・デフォー、ニコラス・ホルトやアーロン・テイラー=ジョンソンらのアンサンブルもさることながら、キャストのMVPはリリー=ローズ・デップだろう。
ノスフェラトゥと繋がり、夜な夜な悪夢や痙攣発作に苦しめられる。捨て身のような憑依怪演と顔芸は唖然…。
すっかりゴシップスターとなった父親だが、かつては鬼才やインディーズの意欲作に引っ張りだこの演技派だった。その血を受け継ぎ、新星の誕生。もうただのジョニー・デップの娘なんかじゃない!
念願の作品を成功させて余韻に浸る事なく、期待度大の作品が続々待機。
ウィレム・デフォーを主演に迎える『クリスマス・キャロル』の新映画化、吸血鬼に続いて『狼男』のリメイク。
ロバート・エガースからますます目が離せない!
