「しっかりと踏襲しつつ」ノスフェラトゥ Minaさんの映画レビュー(感想・評価)
しっかりと踏襲しつつ
ロバート・エガース監督は、前作「ライトハウス」もそうだった様に、決して商業的に成功する様な作品では無いが、観た後に深い余韻を残す作品を作るのが上手い。本作のオリジナル作品なんて現代においてはもう観た人の方が少ないのでは無いかと言うくらい何十年も昔の作品になるのだが、それを現代の解釈で再映画化したとて…と思ってしまう所もある。しかし観るとやはり唸らされる作品になっているのである。
しっかりとゴシックホラーの風格を呈し、演技力の高い役者陣で固めただけあって作品から放たれるオーラはケタ違いである。ビル・スガルガルド演じるオルロック伯爵も現代風ではあるが、それでも古臭さを感じさせない程度の古風な佇まいで、キャラクターとして成り立っている。記憶ではオリジナル版のオルロック伯爵はあそこまで喋らなかった印象だったが、恐らく“怪物"としてでは無く、1人の“登場人物"として描いているという事なのだろうか。
正直オリジナル作品を正確に覚えてはいないが、新解釈という冒険はせずに、基本ストーリーはそのままになっている。不動産の契約から街にオルロック伯爵がやって来る迄のストーリーもほとんどそのままと言って良いだろう。吸血鬼伝説が語られる様になったちょうどその頃、巷ではペストの大流行が起き、近年で言うところの新型コロナウイルスの世界的パンデミックと近い状況だった。そのせいもあって、吸血鬼がネズミと共にペストを広めたという説も実際にあるのだが、吸血鬼とペストと言う、どちらも“未知の存在"が街を闊歩する中で漂うあの終末感はかなり不気味で怖かった。
ドラマ、「THE IDOL -ジ・アイドル-」が酷評であり、脇役のBLACK PINKのメンバー、ジェニーに高評価が集まり、どこか体を張った演技が無駄に感じてしまったリリー・ローズ=デップが本作でも体当たり演技を披露してくれている。女優魂というべきなのか、思わず笑いが出てしまう位の目玉をひん剥いた変顔で罵るのは反則である。彼女はオルロック伯爵から好意を抱かれる存在なのだが、ニコラス・ホルト演じる主人公の妻を迎え入れるという自分勝手な契約書(しかも人間は読めない)を交わし、その為にわざわざ病気持ちのネズミをわんさか従えて国中を混乱に陥れるなんて、バカな男だなと思うが、あれだけ孤独に籠城していればそうなっていくのだろうか。ラストを観ると彼の人生がどう言うものだったのか、知りたくなる様だ。恐らくこんな企画はそうそう生まれないだろう。面白いかそうで無いかでは無く、映画が好きなら観るべき作品だと思う。
