劇場公開日 2025年8月29日

「配給会社を間違えた映画」8番出口 ふぁるさんの映画レビュー(感想・評価)

4.0 配給会社を間違えた映画

2025年9月10日
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鑑賞方法:映画館

怖い

知的

斬新

配給会社を間違えた映画。
別に映画をたくさんみている人が偉いという訳ではないことを前提にした上で言うと、この映画は完全に映画マニア向けの映画。
細かい演出(舞台装置、例えば喘息設定)がたくさんあったが、これら演出はその演出の意味を知っているかどうかで「なるほど」と感じるか、意味不明で蛇足と感じるかが完全に分かれる。(なろうアニメを面白いと思うかどうかは、なろう文法を知っているかどうかという点に似ている)

その辺りがこの映画の評価を分けているのだろう。
そして、空間ループものでかつ、可能性のひとつに過ぎない未来や過去が同一の謎空間に混在している要素があるために、観ている者に解釈の更新を強いてしまった。また、そのような謎空間(映画的なお約束として、平面的にループしている空間はだいたい時間の流れもおかしくなっている)が一般的に浸透していないことが大幅な評価を下げるポイントになったのだろう(人によっては時間軸について矛盾と捉えられたり、単なる尺伸ばしの設定と感じ取られる危険性が高まる)。
一方で、散りばめられた記号的な演出をパズルのように組み立てて自分なりの解釈を考える余地こそがこの映画の大きな評価ポイントであり、高評価を得ている点と分析する。解釈の余地を楽しむことが、この映画の本質なのだろう(なんなら、映画を見終わった後、酒でも飲みながら解釈について皆でワイワイすることを楽しむタイプの映画とすら思う。)実際、私自身も見終わった後の帰りで、この映画の評価がグングン上昇した。
だからこそ、解釈の余地を楽しめない人や一つの解釈しか認めない人からはクソつまらない映画に写るのだろう。

そして、この映画の最大の失敗は超大手の東宝で配給してしまったことが全てである。
東京テアトルあたりで製作して、出演者全員を無名か知る人ぞ知る人にし、おしゃれ映画館にだけ配給していたならレビューとしての総合評価はもっと高まっただろう(ニノの演技は一級品だが、トレンディドラマを観る感覚で観た人からは確実に低評価をくらうタイプの映画だったため、少なくとも演者目当てで観る人を減らす努力はすべきだったと思う)。
M-1グランプリを期待して観に行ったら、古典落語が始まったみたいなものである。
ターゲットとする層を完全に間違えて展開させてしまった映画で、かつ、ホラー枠ではないのにホラー枠で宣伝してしまった映画。
トロント国際映画祭出展作品を前面に押して、アート映画として宣伝すべきだったし、雰囲気映画枠で宣伝すべき映画だった。
ニノが主演でゲームが原作で、ホラー扱いで上映したら、まぁ、低評価になるわなぁってのが正直な感想。
低評価をつけた人でも、北欧のおしゃれ映画を観たつもりで再評価したなら、もっと高評価になるんじゃないかなと感じる。そんな映画。

ふぁる
ふぁるさんのコメント
2025年9月15日

>まっくさん

コメントありがとうございます。
日本の教育の弊害というより、日本の教育の敗北って感じだと思います。

個人の意見として、国語の読解問題の記述問題は「文章に書いてあることを大きく外さないで書いたら」得点になるようになっていると思います。
確かに、有名大学の入試問題なら正解である解釈が名前だけ大学ではバツになることはあるかもしれませんが、ただ、そのレベルになると「書いてあることだけをちゃんと書け。勝手に書いていないことを捏造するな!」という趣旨の問題になっていると考えてます。

漫画のレビューでも見かけることですが、書いてあることをそのまま読み取ることが出来る人がとても多いように感じます。
特に作中で回想シーンなんて入れたら、途端に時系列が狂う人が多いように感じます。

個人的には「ひとつの答えを決めつけて」しまうと、その答えと反する情報が見えなくなる人が多いのかなぁと考えています。
そして、他人の意見を聞かないので、そもそもバツをつけることすらないのかなぁって。

ふぁる
ふぁるさんのコメント
2025年9月15日

>るゆのあさん

コメントありがとうございます。
監督やニノの意図の通りだったんですね。
そこまで分かっていてやってるのなら、「分かりやすさ」を意識すべきでしたよ。

映画マニアやアニオタの「常識」は世間の非常識であることを意識した作品にすべきだったと思いますよ。
有名なホラー映画のオマージュを散りばめられても、普通の人は知りませんって。
歌舞伎と一緒で客を選ぶ映画ですって。これ。

例えばわボロボロになった最初に背負っていたリュックがコインロッカーの横に毛布と一緒に転がってることに途中から気づくぐらいのヒントは必要ですって。

ふぁる
まっくさんのコメント
2025年9月14日

1つの解釈しか認めない人にはつまらない、というのは正にその通りだなと思った。
そして、それって日本の国語教育の弊害かな、と最近感じている。
事実は一つだとしても、真実なんて人の数だけあるのに、ひとつの答えを決めてしまって、他の解答には‪✕‬を付けられる。
入口で受けた印象を、道中の過程の中で変化させる事が出来ずに、出口まで持っていっちゃう人が多いなと、この映画のレビューをいくつか読んで感じた。

まっく
るゆのあさんのコメント
2025年9月13日

どうやら制作側としては、ゲーム実写化の若干チープなホラーという入口で入らせて、後半からヒューマンに持っていくという騙し討ちをしたかったらしい。
軽い気持ちでみたら凄くアート性のある考えさせられる作品だった!と入口と出口をまったく違うものにしたいと監督もニノも言ってるね
だから、その意図ではあってるんだよな、マーケティング
でも、ちょっと映画を娯楽化しすぎてる日本人には早かったかなぁ

るゆのあ
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