「タイトルなし(ネタバレ)」8番出口 りゃんひささんの映画レビュー(感想・評価)
タイトルなし(ネタバレ)
地下鉄。
30代と思しき冴えない男性(二宮和也)。
乗車口に立って、聴いているのはラベルのボレロ。
離れた席で、泣き止まない乳児を連れた女性が、会社員から叱責されている。
彼女(小松菜奈)から電話が入る。
重要な内容だが、電波状態が悪く、途切れ途切れになる。
改札を出て、同じような地下通路を歩いていくが、出口にたどり着けない・・・
といったところからはじまる物語。
ゲームの映画化。
脱出系エンターテインメントか、『CUBE キューブ』のようなSF要素のあるスリラーか、そんなところだろうと思って、当初、鑑賞予定はなかった。
が、食指が動いたのは、川村元気監督、というところ。
彼の製作作品は、作家性よりも一般受けしそうな要素を盛り込んで、薄味になることが多く、肌に合わないことが多かった。
ですが、初監督作品の前作『百花』が大いに気に入った。
エンターテインメント要素、一般受けより、自身のこだわり。
そんな感じがした。
本作も『百花』と同音異曲。
心の迷宮に陥る話。
先にあらすじとして、冒頭部分を詳しく描写したのも、早々に脱出系エンターテインメントでないことが、ここでわかったから。
で、すぐに想起したのは、諸星大二郎の漫画『地下鉄を降りて』。
あちらでは、冴えない中年サラリーマンが地下鉄を降りて、いつもと違う経路で迷ってしまう話。
制度的行動からの逸脱、だった。
対して本作、同じ通路を通るが、通り抜けるときに「異変」に気づくかどうか。
異変がなければそのまま進み、異変に気付けば引き返す。
異変があるにもかかわらず突き進むと、振り出しに戻る(つまり、ひどい目に遭う)。
現代における、繰り返しのような毎日における生き抜き方みたい。
ま、それはサブメタファー。
メインのメタファーは、あくまでも心の迷宮。
踏ん切りを着けるまでの逡巡。
エンターテイメント作品を期待していると、最後は「あれれ」となるだろうし、つまらないと感じること請け合い。
なお、映画をおもしろくするのは、常々、「前進する運動性」と「反復」という二律背反的要素だと思っている。
本作、同じところを進んでいるとはいえ、迷宮の中を前進することで運動性を確保している。
当然にして、反復のおもしろさも有している。
しかしながら、同じところであるがゆえに、反復も度が過ぎると運動性を失ってしまう危険がある。
本作、ギリギリのところで繰り返しを逸らしていて、作劇的にも上手いなぁと思いました。
川村元気、監督作品の方がやっぱり良いね。
なお、巻頭巻末に登場する地下鉄駅、上下2段式のホームの様子からみると、東京メトロ副都心線・東新宿駅とみたが、いかがかしらん。
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