「最小限の味付けの勝利」8番出口 なもしさんの映画レビュー(感想・評価)
最小限の味付けの勝利
ボレロをメインテーマにした予告編を見た時から、センスあるなーと思っていた。
ボレロという曲はご存知のように、同じメロディが繰り返されるクラシックの名曲。
原作のゲームもこの映画も、地下鉄構内の通路を繰り返し巡り、異変の有無を判断して脱出を目指すという内容。
「8番出口」にピッタリな曲だと思った。
ゲーム「8番出口」にストーリーは無く、文字通り閉鎖空間(=地下鉄の通路)脱出の為に異変を探す(または回避する)というのが目的になっている。
これをどのように映画に落とし込んでいくのかが最大の興味であり、見どころと思っていた。
実際の所、ストーリーは最小限でほぼゲームのまま。なんなら、映画を観ながら異変を探すゲーム体験までできるようになっていた。
(通路のビジュアルもゲームのまんま。CGではなくセットだそうでかなり手間がかかっている。)
大袈裟なストーリーの付与ではなく最小限のストーリーにしたことが「8番出口」の映像化の成功に最大限に寄与していると感じた。
さらにイイなと思ったのは、「おじさん」のストーリー追加。
実はおじさんもこの通路に迷い込み、脱出を目指していた人物なのだが、フェイクの出口に足を踏み入れたことでこの世界に囚われてしまったことが判明した。
ゲームとしては、フェイクの出口から脱出してしまうのはゲームオーバーシチュエーション。
これにより映画世界ではゲームオーバーになると通路に囚われてしまうことが確定した。
そうだとすると、最後のギミックもゲームオーバーシチュエーション。子供はかんばんに避難出来て無事だった為、異変を引き返すことが出来た。
流されたニノはどうだったのだろうか。通路に取り込まれていないので、証明写真かロッカーに引っかかっていたに違いない。
ゲームオーバーなら、おじさんの代わりに通路を歩き続けることになるからだ。
ラストは劇中の伏線で行きの電車内の後悔に言及していた為、母親の擁護か続編ゲーム「8番のりば」の世界に巻き込まれるかどちらかだろうと予測した。
結局、観客の想像に任せる終わり方だったが、余韻が残って良かったと思う。
個人的には、因果律から外れたニノは「8番のりば」に巻き込まれることは無いだろうと思う。
(ひょっとして、車両を移った瞬間に「8番のりば」の世界に迷い込むかも。)
本作で惜しいと思うのは、主役はニノではなくもっと没個性な役者が良かったと思うこと。
ゲームはPOV視点なので、主人公が誰かはわからない(プレーヤーと同一であるとも言える。)。ゲーム同様誰か分からない役者の方がもっと世界観に映えたと思う。
(制作委員会のクレジットに「オフィスにの」が入っていたり、脚本協力にニノが入っているので、ニノありきの映画であることは理解出来る。それでも敢えてそう思う。)
同じように小松菜奈も無名女優で良かった。こちらは客寄せにしか見えなかった。
まとめとしては、ストーリー要素の無いゲームの映画化のお手本のような出来で素晴らしかった。
8番のりばも期待したい。
