「 本作は、地下鉄の出口を探し求めるのが本題ではなく、迷宮入りした人生からの出口を暗示させる作品だったのです。」8番出口 流山の小地蔵さんの映画レビュー(感想・評価)
本作は、地下鉄の出口を探し求めるのが本題ではなく、迷宮入りした人生からの出口を暗示させる作品だったのです。
本作はKOTAKE CREATE(コタケクリエイト)が開発し、世界的に大ヒットしたゲームソフト『8番出口』を実写映画化したものです。手がけたのは川村元気監督。プロデューサー、小説家として活躍し、映画「百花」で監督としても評価された才人が、今回も手腕を発揮しています。
原作にはストーリーが存在しませんが、映画版では、主人公の「迷う男」が駅構内のような無限ループの地下通路に迷い込み、異変を見つけたら引き返す、見つからなければ引き返さないというルールの下で、出口となる「8番出口」への到達を目指すお話です。
●ストーリー
蛍光灯が灯る無機質な白い地下通路を、ひとりの男(二宮和也)が静かに歩いていきます。でも、いつまで経っても出口にたどり着くことができず、何度もすれ違うスーツ姿の男に違和感を覚え、自分が同じ通路を繰り返し歩いていることに気づくのです。そして男は、壁に掲示された奇妙な「ご案内」を見つけます。「異変を見逃さないこと」「異変を見つけたら、すぐに引き返すこと」「異変が見つからなかったら、引き返さないこと」「8番出口から、外に出ること」。男は突如として迷い込んだ無限回廊から抜け出すべく、8番出口を求めて異変を探します。
●解説
画面は主人公の一人称視点(FPV)を多用して、迷う男の主観に同化する形で、脱出できない焦燥を観客と共有させる映像となっています。真っ白な地下鉄の通路に掲示板の黄色が目立ちます。無機質な左右対称の空間が、主人公と一緒に観客を作品の世界に没入させるのです。
それは、日常的な都市空間の一画に異界の迷宮が組み込まれている怖さをひしひしと感じさせるものでした。
地下鉄の構内を模した無限に続く地下通路に閉じ込められた状況の中、0番をスタート地点として「8番出口」を目指して進んでいきます。
通路の壁にはゲームの規則を記した“ご案内”に並んで、剔し絵で人気の画家工ッシャーの展覧会ポスターが貼られていたり、また世界で最も有名なループ音楽と呼ぺるラヴェルのボレロが流れたりと、象徴的なアイテムが映画を彩ります。
やがて、CGで作ったかのような歩く男(河内大和)と何度もすれ違い、壁に貼られた数枚のポスターが目に入ってきます。迷う男はそれらにも目を向け、異変を探そうとするのです。
さらっと通り過ぎているだけでは、小さな異変に気づかないという設定は、スマホの画面を指をすべらせて飛ばし読みするのと似ているかもしれません。
川村監督の狙いは、ホラーを狙ったものというのでなく、何でも倍速で見飛ばしてしまう現代の世相に対する批判であり、人間的なものを回復しようとする意思に鮮やかに反転してみせるのです。
それは本作の裏のテーマが、これから生まれてくるかもしれないわが子への愛に気がつくことだったからです。
冒頭に迷う男は別れた彼女(小松菜奈)から電話を受けて、妊娠を告げられます。しかし彼女は今後のことをどうすべきか結論が出せず、元彼である迷う男に丸投げしてきたのです。とっさの話で迷う男も結論がいえず、とりあえず病院に向かうと答えるだけでした。別れたばかりの彼女の妊娠という重大事に、答えが出せず、悩む迷う男の内面が、そのまま可視化したような「8番出口」への無限ループでした。
おまけに彼女の入院先の向かう途中の電車の中で、泣き叫ぶ赤ちゃんをうるさいとなじる通勤客の罵倒に対して、傍観するだけで母親に対して何もできなかったことが、深い罪悪感を抱いてしまうのです。これは、妊娠して動揺する元カノを、結論を伝えずそのまま見殺しにするのかという迷う男の心理状況の伏線になっていました。
ところで「8番出口」への無限ループに陥るなかで、迷う男はいつの間にか、謎の少年と出会い、一種に出口を探し出します。その後地下通路に大洪水が起こり、迷う男が気がつくとそこはあたり一面夏の浜辺で、元カノとともにあの少年が海で遊ぶ姿を眺めていたのです。このときの幸福感を迷う男は噛みしめていました…。
本作は、地下鉄の出口を探し求めるのが本題ではなく、迷宮入りした人生からの出口を暗示させる作品だったのです。
●感想
率直に言って、本作の不条理な世界にははまれませんでした。特に0番をスタート地点とする脱出に向けた展開では、せっかく6番出口まて゜到達していながら、また0番に戻ってしまう原因がわかりにくく、もっとわかりやすく本作のポイントとなっている『異変』について描いてほしかったです。もちろん川村監督はリスペクトしていますが、本作も私小説的な色合いの強かった“文芸作”の「百花」に近くて、自身の作家性が表現を変えて強く出ているのではないでしょうか。
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