「【”現実から目を背けずに現実を直視して生きる。”虚無的に生きる男がエッシャーの騙し絵の如き地下道を彷徨う中、様々な”異変”と出会い自らの生き方をリセットしていく構成、演出が秀でたヒューマンスリラー。】」8番出口 NOBUさんの映画レビュー(感想・評価)
【”現実から目を背けずに現実を直視して生きる。”虚無的に生きる男がエッシャーの騙し絵の如き地下道を彷徨う中、様々な”異変”と出会い自らの生き方をリセットしていく構成、演出が秀でたヒューマンスリラー。】
■男(二宮和成)は生気のない顔で、派遣先の会社に地下鉄で向かっている。社内では泣き叫ぶ赤ん坊を抱いた母親に対し、前に立つ男が怒鳴りつけているが、男を含め、周囲の人間は誰もその男を止めようとしない。
そして、男が地下鉄を降りると別れ話が出ていた恋人(小松奈々)から”妊娠したみたい。今、病院にいる。どうしたら良い?”と電話が掛かって来る。男は、困った様な顔で”病院に向かうよ。”と言い、地下道を歩き始めるが、徐々に同じ場所を何度も歩いている事に気付くのである。
地下道の壁を見ると、
・異変を見逃さない事
・異変を見つけたら、すぐに引き返す事
・異変が見つからなかったら、引き返さない事
・8番出口から外に出る事
と書かれた”ご案内 Information”を見つけるのである。
◆感想<Caution!内容に触れています。>
・冒頭から、没入感が凄い作品である。
男が同じ地下道を喘息持ちのために咳をしながら何度も歩く中で、異変を探すために何度も壁のポスター(中にはエッシャーの展覧会のポスターもある。)、消火栓、非常扉、従業員用扉、換気口二つ、オジサン(河内大和)、コインロッカー、証明写真撮影機、その脇に捨てられているゴミを確認し、異常があると引き返すと、出口を示す番号が1→2になったり、異常が無いのに引き返すと0になったりし、その度に男は喜び、絶望するのである。
この時の二宮和也の、虚無的な顔から徐々に生を求めて必死になって行く顔の変化が凄いのである。そして、絶望の表情も・・。
・男は様々なポスターの眼が動く異常を見つけ、その度に戻り出口の番号が増えるが、小さな男の子が現れた時に“異常だ”と呟き戻るも、出口を示す番号を見ると男の子が”異常”でない事が分かるシーンで、男の子の正体が直ぐに分かるのである。
・一方、無表情に歩くオジサン視点から描かれるパートも面白い。
オジサンが出口を探して歩いていると、女子高生が現れ”毎日、満員の通勤電車に乗って会社に行く、単調な日々。”と告げられ、女子高生が動かなくなった後に、オジサンは8番出口を見つけ、男の子が”行っては駄目!”と言うような仕草で引き留めるも、階段を嬉しそうに上がって行くオジサンの姿は光に包まれ消えてしまうのである。
オジサンが”虚無的な世界の住人”になってしまった事を示すシーンである。あの女子高生も・・。
■男と男の子は何度も地下通路を歩く。男の子が8番出口の8の字が逆である事を見つけたり、従業員用扉のドアノブが真ん中について居るのを見つけたり・・。
そして、従業員用のドアが開いている時に、男がそこから観たのは”自分が、地下鉄の中で怒鳴っている男を見て見ぬ振りをしている虚無的な表情の自分。”だったのである。
男が、”異常”を探す中で、【それまで、無関心だった外界に対し、観察せざるを得なくなっていく】設定が巧いのである。
更に秀逸なのは、スタンリー・キューブリック監督の「シャイニング」のオーバールックホテル内で折れ曲がった通路から鮮血が怒涛の如く流れて来る有名なシーンと全く同じ構成で、泥水が凄い勢いで流れて来るシーンである。
男は一瞬、自分だけ逃げ出そうとするも引き返し、男の子を必死に持ち上げて助けようとするのである。
すると、シーンは変わり【男と恋人が清浄な海岸で、その男の子が遊んでいる姿を幸せそうに見ているシーン。】になるのである。
<そして、男は8番”入口”を見つける。更に地下に降りる階段である。
男は躊躇せずに階段を降り、ホームに滑り込んできた地下鉄に乗るのである。そこでは、泣き叫ぶ赤ん坊を抱いた母親に対し、前に立つ男が怒鳴りつけているのである。
男は、突き上げる衝動を抑えるかの如き(それは、過去の自分の生き方に対してかもしれない。)涙を潤ませた目になり、耳からイヤホンを取り、決意を込めた顔で男の方を見た瞬間に画面は暗転するのである。
今作は、虚無的に生きる男がエッシャーの騙し画の如き地下道を彷徨う中、様々な”異変”と出会う過程で、自らの生き方をリセットしていくヒューマンスリラーの逸品であり、作品構成、演出共に優れたる作品でもある。>
コメントありがとうございます。
すごく詳しいレビューで、映画をもう一度見ている感覚になりました。
・8番出口から外に出る事
これがクセモノ、ニノが脱出できたとほっとしたところで、え、「外に出」ていないじゃん、と気づくんですよね。ゲーム(?)はまだ終わってない、この最後で最大のひねりは面白かったです。
「3番前に~」をを、花も実もある人生です!
NOBUさん、共感ありがとうございました。
私はこの映画を読み解けていませんでした。
二宮和也が、地下鉄に乗っている自分を見たとき、今まで必死に探していた「違和感」を自分の姿にも見たということですね。
ありがとうございました。
めっちゃ詳しく書いておられる!
もう一度映画を見たようでした。
あのサラリーマンは怖すぎて注意したらコ○されるんじゃないかと思いました(°▽°)
地下通路から抜け出せなくなったニノ君。
泣くなよと思いました(°▽°)
エッシャー展行ってみたい。
共感ありがとうございます!
確かに試写会のレビューは高いのが多かったですね。試写会に招待される人たちは映画鑑賞を生業にしている訳ですからその分を差し引いてとも思いましたが、本作は「木の上の戦場」のように狭い空間での演技という難しいシチュエーションの中でも上手く構成できていたと思います。
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