「1粒で2度おいしいエルちゃん」プレデター バッドランド いたりきたりさんの映画レビュー(感想・評価)
1粒で2度おいしいエルちゃん
初主演のプレデターくんを差し置いてこんなこと言うのもなんだが、本作イチバンの見どころは、実に楽しそうに、イキイキと演じているエル・ファニングその人だ。数少ない「出演者」のうち唯一の「見た目ニンゲン」でもあるし…。他のニンゲン(というかアンドロイドだが)といったら、ベン・アフレックみたいなルックスの「同じ顔の男たち」しかいないのだ。
ことに闇落ちエルちゃんの方はVFX効果のせいか、やけにメリハリボディが強調されてるフシもあって一瞬戸惑うが(笑)、これなら将来クラシック・ハリウッドな悪女役もいけそうな予感がして、ファンとしては大変喜ばしい。また、最大のヤマ場の対決がアレではどうなのよという気もするが、愛嬌で許せてしまうのはエルちゃんの人徳の為せるわざとすべきか(笑)。
それはそうと、過去に番外編の2作を含む計7作品が製作されてきた「プレデター」シリーズ。8作目となる今回はシリーズ最高の製作費をかけたのだとか。それでもどことはなしにB級感を漂わせるあたりが、シュワちゃんの第一作目にオマージュを捧げているようにもみえて、大いに好感がもてる(←これ、ホメてます)。
一作目といえば、今作においても若輩プレデターがハイテク武器のほとんどを映画序盤で失い、急ごしらえの「現地調達兵器」で最終決戦に臨む展開があって、あの時のシュワちゃんを彷彿とさせる。あるいはここでテッド・コッチェフ監督の『ランボー』や『地獄の7人』を引き合いに出してもいいだろう。また、このくだりを「原始的な武器と自らの肉体に賭ける」という視点から捉えるなら、本作と同じくダン・トラクテンバーグ監督が手がけた『プレデター:ザ・プレイ』の主人公=コマンチ族の女性戦士を思い返してみるのもいい(余談だが、シリーズ5作目の『プレデター:ザ・プレイ』は、監督以外にも撮影・脚本・音楽など主要スタッフが今作と同じだった)。
以上のほかにも他作品を想起させる場面がいくつも出てくるので、映画ファンならそれらを見つけることも愉しみの一つとなるだろう。
たとえば、自動翻訳エルちゃんの上半身を担いで山野を往くプレデターの姿には、『スター・ウォーズ エピソード5/帝国の逆襲』でバラバラになったC-3POを背負うチューバッカの姿がダブって見える。また最凶モンスターは「ジュラシック・パーク/ワールド」シリーズの恐竜の動きに加え、ニョキニョキ生えてくるあたりなどまるで「ガーディアンズ・オブ・ギャラクシー」のグルートだねと見ていたら、実はさりげなく『エイリアン2』だったりもする。さらに終盤のバトルでも『エイリアン2』のあれや『ターミネーター2』のこれやが思い出される、といったあんばいだ。
そんな本作の物語はアクションアドベンチャーゲームのように進んでいくが、そこにはシリーズ最大の基軸改変も見て取れる。その「改変」とは、「弱肉強食を信条とし、強い獲物を独りで狩ることこそ栄誉である」としてきたプレデターの存在理由を緩め、人間寄りの甘い方向へと舵を切ったことである。なんと若輩プレデターが『ガーディアンズ・オブ・ギャラクシー』のように疑似家族的な徒党を組み、おのれの弱さこそ強さであると証明してみせるのだ。
長年のファンはこれを良しとしないかもしれない。それでも、シリーズ存続のためには根幹にまで立ち返り、時にそれが足枷になり得るなら改めることも厭わない——20世紀スタジオ/ディズニーが投げかけてきたこの重い課題に、トラクテンバーグ監督とスタッフチームは本作をもって見事に応えた。
以上、ジャパンプレミアにて2D吹替版を鑑賞。
※蛇足その1
2D吹替版といっても、プレデターたちは独自の母語を話すため、彼らのセリフは字幕で表示される。意外にもコレがなかなか良かった。吹替のアンドロイド全員との差異が一層際立つ効果をあげていたからだ。本作ではとりわけプレデターが「心情的に人間に近しい存在」として描かれる。そのため、登場人物全員のセリフを一律字幕表示すると彼らが平準化され、プレデター本来の残忍さや凶暴性は希釈されてしまうだろう。
※蛇足その2
本作でプレデターが喋る言語は、『アバター』のナヴィ語を作った言語学者によって開発されたものだとか。一聴すると、ところどころドイツ語っぽくもあるが、アフリカのズールー語などにあるクリック音や動物の唸り声みたいな言語音も含まれていて面白い。観ながら思わず耳をそばだてた。
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