劇場公開日 2025年10月10日

「「未来」を見せきれなかった」トロン:アレス 暁の空さんの映画レビュー(感想・評価)

3.5 「未来」を見せきれなかった

2025年10月29日
iPhoneアプリから投稿

映像クオリティは圧倒的であり、最新VFXの粋を集めたビジュアルはまさに「光の饗宴」。アクションもテンポも軽快で、純粋なエンターテインメントとしては申し分ない。

しかし同時に「技術が人間の存在を侵食する」という近未来的リアリティが、やや薄いか。AIと人間の共存が現実味を帯びている今だからこそ、そこに“もう一歩の真実味”が欲しかった。世界設定は見事でも、「近未来に起こるかもしれない物語」としての説得力が足りない。『マトリックス』のように哲学へ、『エクス・マキナ』のように倫理へ踏み込むこともなく、どこか安全な仮想空間に留まってしまっている。

そしてもうひとつ、避けて通れないのが“多様性のノイズ”問題。
ディズニー制作だから仕方ない面があるが、本作のキャスティングは多様性への配慮が全面に出すぎている。『トロン』という世界は本来、人種や性別を超越した“データの平等”の中でこそ意味を持つ。多様性を“見せる”ことに意識が向きすぎた結果、キャラクター造形がデジタルの理屈よりも政治的バランスに支配されてしまっている感が。

結果、『トロン:アレス』は、“映像の進化”と“テーマの停滞”が奇妙に同居する作品となった。「人間とは何か」を問いを前提に、そして多様性を「要素」ではなく「必然」として機能させられたなら、とやや残念に思う。
現状では、「見事なショー」でありながら、「未来を映す鏡」にはなりきれていない気がする。

暁の空