「はたらくプログラム」トロン:アレス レントさんの映画レビュー(感想・評価)
はたらくプログラム
コンピュータープログラムを擬人化した「トロン」第一作目から今回三作目。身体の細胞を擬人化した「はたらく細胞」のヒントとなったシリーズだと睨んでる。
今回はプログラムを3Dプリンターで実体化できる技術が開発されたことにより彼らプログラムの世界グリッドから現実世界への侵略の危機がせまる。そんな中で革新的セキュリティプログラムのアレスが自我に目覚め、自分の創造主に逆らいヒロインを守り自分自身をグリッドから解放するために戦うといういわば王道の物語となっている。
そもそもがプログラムを擬人化するという「インサイドヘッド」や「はたらく細胞」と同じような世界観の作品なので端から理屈にこだわるような作品ではなく、よくあるロボットが自我に目覚めた系の作品として楽しめばいい。そういう意味で80年代ミュージックを愛する人間味のあるキャラクターとして描かれたジャレット・レト演じる主人公アレスは魅力があった。またヒロインを演じたグレタ・リーも「パストライブズ」以来注目していた俳優さんなので、個人的には彼女が出演してるのが鑑賞の後押しになった。キャスティングが合わないという意見もわからなくもないが。今回時間調整のための鑑賞だったけど期待値が低い分楽しめた。
いま人間が永遠に生きる手段として人間の脳をデジタル化するという方法が考えられている。自分の意識をデジタル化して保存できれば肉体は死んでも意識は半永久的に存在できる。しかし本作のアレスはコンピュータ上では半永久的に生きられるにもかかわらず彼はその真逆の行動をとる。永続コード(非永続コード)を手に入れたアレスは不老不死でいられるはずのグリッドから脱出して現実世界での限りある命を手にする。
自我に目覚め人間らしい心を手に入れたアレスが不老不死ではなく限りある命を選択したのがなんだか印象的であり、これが作り手が本作で言いたかったことなのかなと感じた。
ただのプログラムである彼はこの世界のすべての事象がデーターとして頭に入っているがそれを身をもって「体験」することはできない。正確な天気予報をしながら雨に打たれる経験が出来なかったと惜しむ気持ちを吐露するアレス。彼は永遠に生きられるが生きている実感を得られないグリッドの世界よりも生きている実感を味わえる現実世界での限りある命を選んだ。彼のこの姿はなんとなく現実世界よりもネットの世界に傾倒しリアルな人間関係やら生きている感覚が希薄になりつつある現代人を皮肉ってるようにも思えた。そういう意味で本作は案外深い作品かもしれない。
ちなみに金属3Dプリンターで実体化される際にアンドロイドのアレスや戦車に金属のバリがついてるのはわかるけど、生身の人間であるイブがグリッドから転送されて実体化される際も金属のバリがついてたのはおかしいのでは。それとも彼女も機械化されたのかな?
