「SMILE」父と僕の終わらない歌 toshijpさんの映画レビュー(感想・評価)
SMILE
偶然、寺尾聰が出演する映画を立て続けに観た。
もう1本は「金子差入店」(レビューなし)。
好みの問題やその他諸々の理由でこちらの方が印象が良かった。
映画としても、寺尾聰に対しても。
あちらは重たい話題を重たく描いたもの、対してこちらは重たく
なりそうな話題を極力軽妙に描いているのが良かった。
また、こちらの方が寺尾聰が出演することでキャラクターに実在感が
生まれ、歌唱も含めて納得感のあるキャスティングだった。あちらは
役がダメというわけではないが他の役者でも別に良かった。
寺尾聰が演じる間宮哲太は、かつてミュージシャンを目指したほどの
音楽好き。お洒落を楽しみ、年代物のアメ車を乗り回す”イケ爺”だ。
最近物忘れが多くなり病院を受診した結果アルツハイマー型認知症と診断。
そこで間宮一家が、激しく落ち込むのかと思いきや「病名が分かって
良かったじゃん」ぐらいに前向きに受け止めるところが良い。
それで良いのだ。落ち込んだからって病気が治るものではない。
”笑う門には福来る”で、笑顔でいる方がプラスになることが多い。
診断が下っても哲太は自然体で、明るくてユーモアを忘れない。そこに
魅力を感じるし、寺尾聰の演技がはまっていると思った。
「2016年にイギリスで1本の動画をきっかけに80歳にしてCDデビューを
果たした男性の奇跡の実話をもとに、舞台を日本に置き換えて映画化した。」
とあるように実話を基にしつつも上手く脚色されていて、横須賀に住む
ある家族の物語として違和感がなかった。
物語の結末は分かっていても、アルツハイマー型認知症の症状やそれが
原因で巻き起こる騒動が面白おかしく描かれていて飽きない。
家族の絆、周囲の人々の理解や助けも嫌味なく描かれたヒューマンドラマ。
基本的に出てくるのは善人ばかり。SNSに心無い書き込みをする不特定多数の
人々がいるが直接画面に出てはこない。
終盤のステージの場面は父と息子、母親それぞれの気持ちが伝わってくる。
心温まる場面だ。その後の切ない場面も鑑賞後の余韻を深めてくれた。
息子・雄太役の松坂桃李が好演。なぜか自分は波長が合うらしく、彼の演技
には毎回満足している。
松坂慶子をはじめ他の出演者も好感度が高かった。
佐藤浩市が”(友情出演)”って何?と思った。”格が違うけど出てあげるよ”
みたいな感じかな?別にこの役者さんが嫌いではないけれど。ま、いいか。
「ちはやふる」シリーズも好きだったので自分は小泉徳宏監督とも波長が
合うと感じた。
挿入歌の選曲、寺尾聰の歌唱にも満足。「SMILE」は大好きなチャールズ・
チャップリンのモダン・タイムス(1936年製作/原題:Modern Times)
の曲で、後付けされた歌詞がこの映画の世界観にぴったりだった。
こちらこそ共感ありがとうございました。
私も「金子差入店」を見ましたが、こちらの「父と僕~」の方が明るくて寺尾さんらしくて良かったですね。
まだまだ大変な状況は続くのに、最後、寺尾さんの手に包まれた松坂君の顔が優しくて何だか安心しました。

