「ジェームズ・ガン監督によって描かれる、新生DCユニバース!!」スーパーマン 緋里阿 純さんの映画レビュー(感想・評価)
ジェームズ・ガン監督によって描かれる、新生DCユニバース!!
《IMAXレーザー》にて鑑賞。
【イントロダクション】
地球での活動から3年が経過したスーパーマン/クラーク・ケントと、宿敵レックス・ルーサーとの戦いを描く。
ザック・スナイダー監督による『マン・オブ・スティール』(2013)から始まった一連のシリーズ、“DCエクステンデッド・ユニバース(以下:DCEU)”を打ち切り、マーベルの『ガーディアンズ・オブ・ギャラクシー』シリーズを手掛けたジェームズ・ガン監督によって再始動した“DCユニバース映画(以下:DCU)”の第1作。
【ストーリー】
・3世紀前、地球に超人(メタヒューマン)たちがやって来た。彼らの登場により、人類は“ゴッズ・アンド・モンスターズ”の歴史を始める。
・30年前、クリプトン星からカル=エルが地球にやって来る。彼は、ジョナサンとマーサの息子として育てられる。
・3年前、カル=エルはクラーク・ケントとして新聞社デイリー・プラネット社に入社。正体を隠してスーパーマンとしての活動を開始した。
・3週間前、ボラビア共和国による隣国ジャルハンブルへの侵攻を阻止。合衆国政府の許可なく政治的介入をした事が問題になる。
・3分前、ボラビアの“ハンマー”と名乗る超人との戦いに敗れ、スーパーマンは初めて敗北する。
南極。ハンマーとの戦いにより負傷したスーパーマン(デヴィッド・コレンスウェット)は、飼い犬のクリプトの助けを借りて南極の氷の下に隠した結晶型の要塞にて治療を受ける。要塞内には複数体のスーパーマン・ロボットがおり、治療の際にスーパーマンは亡き両親からのビデオメッセージを閲覧するのが決まりだった。しかし、肝心のデータは後半部分が破損しており、彼が両親のメッセージの真意を知る事はなかった。
不完全ながら治療を終えたスーパーマンはメトロポリスへと戻り、ハンマーとの再戦に挑む。一方、スーパーマンの宿敵レックス・ルーサー(ニコラス・ホルト)は、自身の会社《レックス・コープ》の作戦司令室にて、ハンマーに指示を出してスーパーマンを圧倒する。ハンマーは、ルーサーの長年の研究によって生み出されたウルトラマンなる超人が変装した存在だったのだ。スーパーマンは再び敗北を喫した。
ルーサーはアメリカ合衆国国防総省(ペンタゴン)にて、役員らにスーパーマンの脅威を力説し、自身が組織した部隊“ラプターズ”によるスーパーマンの排斥を提案する。
翌朝、クラーク・ケントは自らが手掛けたスーパーマンの記事で新聞のトップを飾る。彼は密かに同僚のロイス(レイチェル・ブロスナハン)と交際しており、彼女はクラークの正体を知っている数少ない人物だった。彼女の自宅にて成り行きでインタビュー取材を受ける事になったクラークだったが、個人的判断に基づく政治介入やネットでの批判を指摘され感情的になってしまう。
一方、ルーサーは陽動の為にメトロポリスにKAIJUを放ち、スーパーマンが相手をしている間に部下のエンジニア(マリア・ガブリエラ・デ・ファリア)とウルトラマンを引き連れ、南極の要塞に侵入した。身体を自由自在に変化させられるエンジニアにより、コンピュータ内にある両親からのビデオメッセージが復元される。
スーパーマンは、超人部隊“ジャスティス・ギャング”のメンバー、グリーン・ランタン/ガイ・ガードナー(ネイサン・フィリオン)、Mr.テリフィック(エディ・ガデギ)、ホークガール(イザベラ・メルセード)らと共にKAIJUを駆逐する。市民から賞賛を受ける。
しかし、突如ニュースにて両親からのビデオメッセージが流され、彼の立場は一変する。破損していたデータの後半部分は、カル=エルに「地球人からの信頼を得て彼らを支配し、多くの妻を娶ってクリプトン人の遺伝子を新たな故郷である地球に根ざせ」という内容だったのだ。フェイクニュースを疑うスーパーマンだったが、それは紛れもない両親からのメッセージだった。世界は掌を返してスーパーマンを敵と見做して糾弾する。
両親が自分を地球に送った本当の理由を知り、愕然とするクラーク。彼は自首を決意してロイスに別れを告げ、政府から委託を受けたルーサーによって異次元空間“ポケット・ユニバース”へ連行されてしまう。
【感想】
面白いのは間違いないのだが、それと同時に鑑賞中幾度も不思議な感覚を覚える作品だった。
例えるならば、
《1なのに2、いや3を観ている感覚。だけど1!》という感じだ。
ジェームズ・ガン監督が、インタビューにて「アメコミヒーロー映画でもう観たくないシーン」として、①スパイダーマンがクモに噛まれるシーン、②バットマンの両親が殺害されるシーン、そして③スーパーマンこと赤ん坊のカル=エルがロケットでクリプトン星を脱出するシーンを挙げていた。そして、その言葉の通りに本作では一応のシリーズの第1作であるにも拘らず、大胆にもスーパーマンは地球にて既にヒーロー活動を開始してから3年が経過している。ざっくりとした経緯は冒頭のテロップで済ませて、いきなりスーパーマンの敗北から物語はスタートする。
こうした大胆な省略は、『スーパーマン』という広く認知されたキャラクターだからこそ出来たアプローチであり、改めてこのスーパーヒーローの偉大さを痛感する。
それにしても、本当に「こんなの続編でやるような話(出すキャラ)だろ!」という要素のオンパレードだ。
・物語開始早々、宿敵レックス・ルーサーの操るハンマーに“敗北”するというのは「3」。
・ロイスとは既に恋人になって3ヶ月が経過しており、自身の正体も知っている。また、彼女の家に出入り出来るというのは「2」。
・グリーン・ランタン、Mr.テリフィック、ホークガールからなるヒーローチーム“ジャスティス・ギャング”という他の超人部隊が登場するのは「2」。
・ハンマーことウルトラマンの正体が、実はクラーク・ケントのクローンであるというのは「3」。
普通ならば続編でやるような要素をふんだんに盛り込み、129分という映画としては理想的な尺の範囲内でキャラクター達のあらゆる魅力を描き切るその手腕は、流石マーベルで『ガーディアンズ・オブ・ギャラクシー』シリーズを大成功に導いてきたジェームズ・ガン監督といった所。お見事です!
ヒーロー映画、何よりも正義の象徴とも言うべきスーパーマンらしく、人面救助シーンが随所に盛り込まれているのも素晴らしい。予告編で解禁されていた少女を救出するシーンの他にも、KAIJUとの戦闘の中でリスのような小動物まで救出する姿は新鮮。
また、ルーサーによる“次元の裂け目”事件の中では、メトロポリスの橋から車に乗った女性を助けるシーンに、原作が、そしてDCEUが目指していた“神としてのスーパーマン”というビジョンもちゃんと踏襲されている。崩壊した橋の土煙の向こうから差し込む太陽の光に照らされ宙に佇む姿は、まさに神が天から衆生を救わんと降臨したかのような神々しさ。
個人的に、本作で最も評価したいのが、「クラークが戦いを任せられる存在が居る」という事だ。私は、スーパーマン作品にはDCEUから触れた身なので余計にそう感じるのかもしれないが、スーパーマンは最初とても孤独に描かれていた。人々の危機を救えるのは自分しかいないからと、孤独を抱えながら絶えず救いを求める人々の元に駆け付けなければならなかった。
しかし、本作では既にグリーン・ランタンをはじめとした他の超人達が、共に地球の平和を守っている。だからこそ、スーパーマンやロイスは彼らを頼る事が出来る。
街を襲う異次元生物を「ただの異次元生物だから」とロイスの部屋から眺めるギャグから、侵攻されるジャルハンブルの人々の元にジャスティス・ギャングが駆け付けるシーンまで、とにかくスーパーマンが孤独でない事が示されるのが良い。
グリーン・ランタンことガイ・ガードナーがジャルハンブルの少年に向けて言った「悪いな坊や。スーパーマンの代打だ」という台詞は、本作一の名台詞だろう。
ルーサーの悪事がバレるキッカケが、恐らく散々見下していたであろう恋人のイブによる日々の自撮り写真というのは笑えた。あれだけのテクノロジーを有していながら、ネットリテラシーは低かった模様。
犬のクリプトのキュートな魅力は、これまでも自身の作品で度々動物や人外生物を描いてきたジェームズ・ガン監督ならお手のものか。スーパーマンの言う事を聞かずに暴れ回り、次元の裂け目事件ではペットショップのドッグフードを漁る始末。本来の飼い主であるスーパーガールにすら容赦なく突進する姿の自由奔放さが愛らしい。人間に服従するペットではなく、あくまでパートナーとして対等の立場で描く姿勢に時代性と監督の手腕が見て取れる。
【これ以上ない程のハマり役のキャスト陣が見せるアンサンブル】
スーパーマン/クラーク・ケント役のデヴィッド・コレンスウェットのハマりっぷりは、誰もが認める所だろう。明るいトーンで仕切り直されたDCUのスーパーマンとしてベストな人選だ。
青スーツの上に赤パンツという風貌が間抜けに見えないというのは、それだけでも凄い事である。何せ、DCEUでは作品のトーンや時代性から赤パンツは排除せざるを得なかったのだから。
ヒーロー活動開始から3年が経過しつつも、まだ青臭く向こう見ず、簡単に人を信用し、ネットの悪評に腹を立てるという未熟さも、彼の若々しいビジュアルにマッチしている。
宿敵レックス・ルーサー役のニコラス・ホルトは、『マッドマックス/怒りのデス・ロード』(2015)以来のスキンヘッド姿のインパクトもさる事ながら、スーパーマンに対する徹底的な妬みの姿勢も印象的。本作のルーサーは、そもそもがコンプレックスの塊であり、だからこそ、自身を批判した政治家や評論家、元カノまでポケット・ユニバースに幽閉する。大企業の社長として大成功していながら、決して満足する事のない人間の欲望の象徴でもある。
グリーン・ランタン/ガイ・ガードナー役のネイサン・フィリオンは、普段の素顔とはまるで別人な、特徴的なヘアスタイルとニヒルな笑みが印象的。メンバーからの不評も他所に、“ジャスティス・ギャング”という名称を名乗ってはリーダー的に振る舞い、ヒーローとしては些か粗暴な性格。しかし、スーパーマンに世間からの疑いが掛かった際に、逃げ込んだビル内で大衆から見えないようパワーリングでガラスに靄を掛けたり、ジャルハンブルに加勢に訪れる等、本質は間違いなく正義のヒーロー。パワーリングで、中指を立てた巨大な腕を出現させ、ボラビア軍を蹴散らす様子に、彼の性格がよく現れているのも楽しい。
彼単体、もしくはジャスティスギャングのメンバーで一本映画化してほしい程魅力的だった。
隠れた仕事人Mr.テリフィック役のエディ・ガデギも外せない。「情に流されない」や「ランタンを困らせたいから」と言いつつ、しっかりとロイスに協力してスーパーマン救出に力を貸す人情派。スーパーマンから度々地雷を踏まれて拗ねる姿も面白い。武器であり解析機でもあるT-スフィアも、思わず欲しくなる。
他にも、カメオ出演したジョン・シナによるピースメーカーや、ミリー・オールコックによるスーパーガールと、思わずクスッと来るような印象的なキャラクターの登場も楽しかった。
【総評】
装いも新たに、再スタートを切ったDCユニバースは、明るくユーモアに溢れた「これぞヒーロー映画!」という痛快な一作に仕上がった。ようやく、DCもマーベルに並ぶ実写映画化のヒットシリーズを抱えられそうで、今後控えている作品にも期待が持てる。
ところで、ハンマーに敗れた翌日の新聞の一面をスーパーマンに関する記事で飾り、ご機嫌な様子で出社するクラークだったが、初敗北を喫したのにあんな明るい態度で良かったのだろうか?(笑)
何をネタバレと受け取るかは人それぞれですし、ネタバレ設定はあくまで任意選択の機能です。あなたが本作の鑑賞前に私のレビューに辿り着いてしまったからこその意見でしょうが、それこそ勘の良い人ならば、その人の評価点数やレビュータイトルからすら作品に対するスタンスやストーリー内容を予想出来てしまう事だってあります。
何より、私のレビューは「全文を表示」を選択しなければストーリーの核心に触れた項目には辿り着けないよう配慮していますので、ご了承くださいますようお願いします。