「奇跡を描くにはシナリオが弱く、転換点である発見をもう少し劇的にした方が良かったと思う」デュオ 1/2のピアニスト Dr.Hawkさんの映画レビュー(感想・評価)
奇跡を描くにはシナリオが弱く、転換点である発見をもう少し劇的にした方が良かったと思う
2025.3.3 字幕 イオンシネマ京都桂川
2024年のフランス映画(109分、G)
実在の双子のピアニストに着想を得た音楽映画
監督はフレデリック・ポティエ&バランタン・ポティエ
脚本はフレデリック・ポティエ&バランタン・ポティエ&サビーヌ・ダバディ&クレール・ルマレシャル
原題は『Prodigieuses』は「驚異的な」という意味
なお、モデルになったのは、双子のピアニストのAudrey Pleynet&Diane Pleynet
物語の舞台は、フランスのアンデス地方の田舎町
元水泳選手の父セルジュ(フランク・デュポスク)と母カトリーヌ(イザベル・カレ)の元に生まれた姉のクレール(カミーユ・ラザ、幼少期:Milla Dubourdieu)と双子の妹ジャンヌ(メラニー・ロベール、幼少期:Lucie Usal)は、幼少期からピアノが大好きで両親はそれを支援してきた
1番になることにこだわる父の指導のもと、双子は数々の賞を獲ることになり、そしてドイツの名門音楽大学に進学することになった
最上位のクラスはレナート先生(アウグスト・ヴィトゲンシュタイン)が率いるクラスで、彼は大学の代表を決める立場にいた
入学した二人はクラス分けの試験を受けるものの、クレールはレナートのクラスに入れたが、姉のコピーだと思われたジャンヌはフィッシャー先生(エリザ・ダウディ)のクラスに入れられてしまった
物語は、いつも一緒だった二人が別々のクラスになり、さらにクレールは同級生のダニエル(Lennart Betzgen)と仲良くなっていくことで距離が開いていく様子が描かれる
そして、ダニエルに誘われたセッションやその後の余興を楽しむことになるのだが、それが父親にバレてしまう
それからクレールは演奏に不調を来たし、腕の痛みを訴えるようになる
当初は、余興の腕相撲のせいだと思っていたが、実際には父にスマホを奪われた際に捻挫をしていて、そこである事実が浮上するのである
映画は、実在の姉妹に着想を得た作品で、どこまでが事実かはわからない
二人の名前でググると本人たちのホームページがあり、そこから二人の演奏とか、これまでのキャリアなどがわかるので、気になる方は参考にされた方が良いだろう
二人がドイツのカールスルーエの国立音楽大学に入学したこと、そこでギュンター・ラインホルト教授とペーター・フォイヒトヴァンガー教授に学んだとされているが、どちらがレナート先生なのかはわからない
また、先天性の疾患によって数年間両手が使えなくなったのだが、そのあたりの経緯もアレンジが加わっている
史実をベースにしながらも実名を使っていないので、かなりの脚色が加わっていることはわかるのだが、その辺りを突っ込むのは野暮だと思う
ただし、脚本的には劇的に盛り上げようとして空回りしている印象があって、特に目立つのは「二人の演奏方法を確立した後にクレールが演奏を拒否する」という場面だろう
そこで初めて「双子であることの葛藤」というものが示されるのだが、この局面において、そのテーマを深掘りするのは遅すぎるように思えた
クレールとジャンヌの距離は空いた時点ではジャンヌは寂しさを感じているが、クレールが双子から開放的になっているというシークエンスも弱いので、あの告白はやや唐突な感じがした
父親の心変わりも加味されているが、それはピアノの再購入の段階で終わっているので、「双子の奇跡」は演奏によって示されればそれで良かったのではないだろうか
また、一番気になったのは、「二人で補完し合うというアイデアの出どころ」であり、どのようにしてあの奏法が生まれたのかの描き方だろう
映画だと、ジャンヌが諦めきれずにクレールが補完をするという流れになっていたが、姉妹で見つけた方法なのか、別の要因で閃いたのかなどの明確な転換点があっても良かったと思う
その部分がサラッとしているのと、普通にピアノを練習するよりも過酷だったと思うので、絶望からの転換、その努力と評価の方に注力した方が良かったように思えた
いずれにせよ、クラシック好きにはたまらない内容で、スポ根的な要素も良かったと思う
予告編と邦題で完全ネタバレしているので期待以上のものはないのだが、それでも見せ場を作るとすれば「奏法のひらめきと努力」の部分だと思う
学内のコンサートでいきなり披露という荒技でドラマティックに演出しているものの、同じ大学内で練習していてバレないはずもなく、このあたりのリアリティラインがかなり薄い
それを考えれば、休学の間に奏法のひらめきを得て特訓し、それを観たダニエルやロレナあたりが「彼女たちが学校の代表になるべきだ」と動いた方がわかりやすい
劇中の時間の流れだと、コンサートはかなり逼迫している感じなのに、離脱して復学してもまだコンサートが始まっていないのは意味不明だった
その辺りをクリアしていれば、もう少し感動的に仕上がられたのではないかと感じた