劇場公開日 2025年6月13日

「呪禁師が登場してのちのシーンは、現実離れした怪奇な展開が続き、奇をてらいすぎていると感じました。」ドールハウス 流山の小地蔵さんの映画レビュー(感想・評価)

3.0 呪禁師が登場してのちのシーンは、現実離れした怪奇な展開が続き、奇をてらいすぎていると感じました。

2025年7月2日
PCから投稿
鑑賞方法:映画館

怖い

驚く

「ウォーターボーイズ」「スウィングガールズ」の矢口史靖監督が長澤まさみを主演に迎え、亡き娘に似た人形に翻弄される家族の恐怖をオリジナル脚本で描いたミステリー映画。
 主演の長渾まさみと人形を配した本作のチラシは不気味で、両者の無表情が怖いのです。けれども、製作サイドによると、本作は「ホラー映画」ではないとのこと。「新たなジャンルの映画」として、「ドールミステリー」と呼ぶようです。

●ストーリー
 鈴木佳恵(長澤まさみ)は5歳の娘・芽衣(本田都々花)を不運な事故で亡くして以来、落胆して日々を過ごしていました。ふとしたことから骨董市で芽衣に似た人形を見つけて衝動的に購入します。看護師の夫・忠彦(瀬戸康史)は、人形を連れ歩く佳恵を訝しがるが、佳恵が元気を取り戻すならと一緒に可愛がり、外にも連れ出していたのです。人形を我が子のように愛情を注ぐことで佳恵は元気を取り戻していきます。
 そんな中で2人目の娘・真衣が生まれると、忠彦も佳恵も人形に見向きもしなくなります。ある日、人形と寝かせていた真衣の首に髪の毛が巻き付いており、気味が悪いと感じた佳恵は、人形をクローゼットの奥にしまうのでした。

 やがて、5歳になった真衣(池村碧彩)がひょんなことから人形を見つけ出し、「アヤ」と名付けて一緒に遊び、アヤと会話するようになっていきます。真衣の幼稚園の先生は、この年代の子にはよくあることだと言いいますが、先生からは母子が首つりをしている場面や着物姿の女児が釜茹でにされている場面を描いた真衣の絵を見せられます。不気味に感じた佳恵はその絵とともに人形をゴミの収集に出したのですが、ゴミ分別に細かい管理人によって人形が戻って来てしまいます。

 ついには家の中で人形により真衣が負傷するという事態になります。でも、人形の怪異に対して半信半疑の忠彦は佳恵の真衣に対する虐待を疑うとともに精神状態を案じ勤務先の病院に入院させ、心療内科医・竹内良子(西田尚美)の治療を受けさせます。そして真衣を佳恵と切り離して人形とともに母親の敏子(風吹ジュン)の家に預け、佳恵の希望もあり人形供養の依頼することにします。しかし、敏子の家でも怪異が起こり、敏子が負傷してしまい、付近の防犯カメラには幼い子に敏子が暴行された映像が残っていたのです。 傷害事件として敏子は逮捕されて、刑事の山本(安田顕)が担当することになります。
 一方供養を依頼された人形が著名な人形師の安本浩吉作で高額で取引されることを知った寺の関係者である僧侶・寺嶋(今野浩喜)が横流しを企んで持ち出します。しかしその寺嶋も怪異に遇い負傷して忠彦の勤務する病院に搬送されるのです。寺の住職からは我々の手には負えないと謝罪され、人形は忠彦の手元に戻るのでした。

 山本が人形を証拠品として押収したところに、寺から紹介された呪禁師の神田(田中哲司)がやってきます。こうして佳恵と忠彦は、神田の助けを借りながら、人形に隠された秘密を解き明かしていくのです。

●解説
 序盤の展開はホラー映画風だ。成長した真衣が人形と遊ぶようになると、不可解な出来事が次々起こるまでの展開は、正調ホラーに近いです。出色なのは、人形からは何も仕掛けないこと。あくまで観客の想像力をかき立てる演出で、人形のアップだけで恐怖感を描き出しているのです。
 ところが、人形を巡る謎がつまびらかになり、呪いを解く段になって、転調し始めます。マニュアル的な説明と安田顕、田中哲司らがきまじめに演じる人物によって、奇妙な味わいが、そこかしこに広がり始めます。それもそのはず、監督が「ウォーターボーイズ」「スウィングガールス」などの矢口史靖なのです。テンポの良さは矢口映画の真骨頂。中盤以降、皆がジタバタして、物語が転がっていくさまは、初期の監督作「ひみつの花園」などを思い出させ、うれしくなりました。同作で主演した西田尚美がちょこっと出ていて、ニヤリ😏。軽みのさじ加減は、確かに「ドールミステリー」と呼ぶのにふさわしいと思います。

●最後に一言
 ただねぇ、人形が何度も戻ってくる展開は、この手の話ではお約束のことなのかもしれません。でも中盤以降の戻り方は、かなり強引だと思います。管理人がゴミの分別違反だと主張して、わざわざ捨てられた人形だけ持ってくるものなのでしょうか。
 そしていくら著名な人形師の作品で高値が見込めるからといって、人形供養を売りにしている寺の僧侶が、お祓いの依頼を受けた曰く付きの人形を勝手に持ち出し、売り飛ばそうとするものかと疑問に思えてなりませんでした。
 とにかく呪禁師の神田が登場してのちのシーンは、現実離れした怪奇な展開が続くのです。ラストの人形のアヤが自分を大切にしてくれる新しい父母が欲しかったのではと気づくというところは、かなり捻くりすぎているのではと感じました。

流山の小地蔵