「Jホラーの鉄則と独自の魅力を携えた傑作」ドールハウス NandSさんの映画レビュー(感想・評価)
Jホラーの鉄則と独自の魅力を携えた傑作
前提として
・予告は視聴済。
・矢口史靖監督の他作品は未視聴。
しっかり怖いし面白かった。
まず導入が素晴らしい。
芽依ちゃんが事故で亡くなるまでのフェイント、嫌な予感、全部覆しての洗濯機。長澤まさみさんの表情も素晴らしい。
日常の細かな変化。手洗いをしている姿が印象的。人形ホラー(ミステリー??)であることを最初は忘れてしまう。
そこからファンタジーのような出会いを経て、礼ちゃん登場。しかしまだホラーではない。傍から見れば不気味だが、描かれる様子は家族や心のケアそのもの。むしろ感動作。
ここの時点でかなり引き込まれる。分かりやすく、テンポも良い。
そして真衣ちゃんが産まれ、さらに「五年後」。ここにきて人形ホラーとしての本領発揮。
少しづつ不穏な伏線が貼られまくり、礼ちゃんが"動き出す"。
"動き出す"と書いたが、正確に言えば気づいたら"動いていた"。動いている間の礼ちゃんの表情は絶対に描写されず、(霊体になるまで)動きそうで動かない、なのに変化している…人形としての不気味さを気持ちよく演出していた。『礼ちゃん』というキャラクターブランドも確立できる味付け。
照明と画角だけで、礼ちゃんの表情すらも描ける巧みさもすごい。撮影方法だけで無機物にこんなに感情を感じさせられるのか。
俳優陣の(演技力はもとより)キャスティング、使い分けも絶妙。
全てが気持ちよくハマっている。神田さんが最高に好きです。安心感と抜けてる感の神バランス。
なによりストーリーが面白い。Jホラーの鉄則とでも言うべきか、様々な要素が守られている。
〇"怪異が一つ"であること。礼ちゃん以外の怪異が存在しない。色々な怪現象も全て礼ちゃんがトリガー。
〇導入で、"現実に近い世界観"と"家族という背景"が描かれること。ついでに言えば中盤に非日常が入り込み、終盤で非日常が舞台に変化する。ゴール地点が島、というのも印象的。さらに家族という背景を描くと、主人公たちの目的が「怪異から家族を守る」になり、非常に分かりやすい。ここも良いポイント。
〇最後には"怪異が解明される"こと。有耶無耶にせず、少しづつ恐怖の原型が視えてきたところで、最終決戦に持ち込む。
〇親しい"死人が助けてくれる"こと。非常に盛り上がる部分かつ、日本人の宗教観にもマッチしている。
〇"バッドEDもしくはビターED"。ハッピーには終わらない。しかし今作には合わなかった気がする。伏線は張っていたけど、芽依ちゃんの展開が死んでしまう。今作唯一の懸念点。
と、まぁ色々並べてみると(他作品で申し訳ないが)『リング』との共通点を強く感じる。
面白いのも納得だし、ED以外はきれいにハマっていた。
逆に独特の特徴もかなりある。
まずは伏線の貼り方。
貼り方、映し方が本当にさりげない。さりげなーく映しておいて、気づく人には気づくように計算されている。映画の観方としてもお化け屋敷としても楽しい。
グロイシーンがほぼない。
色々想像出来たり痛々しい場面はたくさんあるが、内臓が飛び出たり大量出血したりするような直接的なシーンはかなり少ない。よって対象年齢もある程度低く設定できる。
そして(最初は気づかなかったが)劇中で死亡する人物も極端に少ない。
回想は別として、劇中時間で亡くなるのは芽依ちゃんだけ。非常にすごいことである。ホラー映画で死ぬ人物が一人しかいないのに、しっかり怖い。本当にすごい。
ED以外、面白さが留まることを知らない。ホラーなのにワクワクする。
(面白さ・怖さという面で)安心して観られるホラー映画。そんな作品。
