「アヤの悲しみにもスポットを」ドールハウス jin-inuさんの映画レビュー(感想・評価)
アヤの悲しみにもスポットを
事故で5歳の娘、芽依を亡くしてしまったお母さん、鈴木佳恵(長澤まさみ)。心が壊れてしまった事故後の姿に胸が痛みます。子どもを置いて買い物に出る際は刃物を棚にしまい、風呂に水が溜まっていないことを確認するほど子どもの事故防止に気をつけていただけに、その心痛はどれほどでしょうか。
実の母に虐待を受け、無理心中の犠牲になった安本礼(アヤ)。彼女の骨格と魂は生き人形になってこの世を彷徨っています。(理想のお母さんを求めて?)
佳恵とアヤは引き寄せられるように出会い、相性はベストマッチ。アヤのお陰で佳恵はやっと心の安定を取り戻します。
問題は、佳恵が第2子真衣を出産したこと。アヤはクローゼットの奥深くにしまわれ、その存在を忘れられていきます。
成長した真衣とアヤはなぜかマブダチになり、引き離そうとする者には不可思議な災が降りかかるように。
この物語の問題は、「アヤは何を求めていたのかよく分からない」点です。理想のお母さんを求めていたのなら、アヤと真衣はライバルとしてお母さんを奪い合うはずですがそうはなりません。アヤはどうやら優しいお母さんじゃなくて、同年代のお友達を求めていたみたいです。なぜアヤがあんなに真衣に執着したのか、よく分かりません。ただ寂しかったのでしょうか。途中からアヤの気持ちが全くわからなくなりました。入れ替わりが目的だったら真衣が生きている限り無理だし…。
佳恵を襲う凶暴なアヤを止め、どこかへ連れ去って行く芽依の霊。佳恵は芽依に感謝を捧げます。霊になった娘が母を救う、本作で一番のエモーショナルなシーンでした。アヤは結局ただ凶暴で邪悪な存在としてしか描かれなかったのは残念です。アヤの悲しみにもスポットを当てていたら、もっと感情を揺さぶる哀切なホラーにできたのではないでしょうか。せっかくの純和風仕立てのホラーだったのに残念です。
今どきポラロイドカメラなんて小道具を持ち出して、暗闇の中、ストロボ撮影で異形のアヤを写しまくるなんて、演出が陳腐すぎて冷めました。
映画も無事クランクアップし、久しぶりに東京のマンションに戻る長澤まさみ。友達からの飲みの誘いも断り、手慣れた様子で夕食の準備を始める。作る料理はなぜか子どもが好みそうなものばかり。カメラが引くと、おしゃれなリビングのテーブルの前にちょこんと座らせられたアヤの姿。
このくらいのエンディングのほうがより狂気的でよかったのでは。
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