劇場公開日 2025年11月14日

「五十にして惑う」平場の月 ジュン一さんの映画レビュー(感想・評価)

4.5 五十にして惑う

2025年11月15日
PCから投稿
鑑賞方法:映画館

泣ける

幸せ

癒される

『孔子』によれば、齢五十は「知天命」。

この「命」は「いのち」の意ではないけれど、
自分くらいの世代になればどうしても
来し方行く先を考えしてしまう。

人生百年なら折り返し点。
その歳でのできごとは
以降の人生に強い影響を与えるメルクマール。

背負った子供は「名月を取ってくれろ」と泣くけれど、
手の届かない場所に在ることを我々は知っているし、
取ろうとする欲も無くなっている。

年上の人の姿に我が身を重ね、
先のことを半ば案じながら生きている。

朝霞の印刷工場で働く『青砥(堺雅人)』は、
検査に行った病院で中学校の同級生『須藤(井川遥)』と
三十数年ぶりに再会する。

『青砥』は妻と別れた後に地元に戻りつつましく暮らし、
『須藤』は夫と死別したのちパートで生計を立てている。

実際は互いに初恋の相手だったことは、
おいおい語られるところ。

会わなかった歳月を取り戻すように逢瀬を重ね、
言葉で過去を埋めて行く。

昔のような関係になるまでにさほどの時間は掛からず、
やがて将来を考え始めるのだが・・・・。

監督の『土井裕泰』は
感情に訴え掛ける作品に才気を示す。

直近の
〔花束みたいな恋をした(2021年)〕
〔片思い世界(2025年)〕、
とりわけ前者と本作の構造上の共通点に目が行く。

頻出する固有名詞が、
会話にリアリティを与え、
自分も同じような体験をしたかの如くに錯覚してしまうのだ。

イイ歳なのにその関係は
青春時代を再現しているようで微笑ましい。

まるで昔の自身を見ているように。

「アネゴ」と表現したいほどの
『井川遥』の演技にほれぼれする。

彼女も四十九歳は、役柄と同年代。

気風の良い、すぱっすぱっと切れる裏表のない口調が、
『葉子』の性格を現す好演。

焼鳥居酒屋「酔いしょ!」の大将を演じた『塩見三省』も
渋い巧味を出している。

調理場の奥に座り、
ほぼほぼ声を出すことも動くこともないけれど、
人間の機微を弁えた所作が心に沁み行って来る。

遭逢と喪失は、
誰の身にも繰り返し起こること。

軽重はありも、
何れも心の中にしまい込まれて、
なにかの折りに記憶は刺激され、
時々で切ない想いが甦る。

スクリーンに映る、
互いを思いやる二人の姿は、その象徴。

本作は、あなたの物語りであり、
私の物語りでもある。

ジュン一
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