「原作を尊重した作風と息を呑む緊張感が素晴らしい」沈黙の艦隊 北極海大海戦 アラ古希さんの映画レビュー(感想・評価)
原作を尊重した作風と息を呑む緊張感が素晴らしい
1988 年から 1996 年まで連載されたかわぐちかいじの原作コミックは全巻持っている。2年前に公開された劇場版第一作に続く二作目だが、第一作に続いて東京湾で米国第七艦隊と第三艦隊を相手にしながら日本と同盟を結ぶ部分は、アマプラの配信で描かれているので、それを見ていないと物語の連続性が損なわれてしまい、上戸彩の存在理由などが分からなくなってしまうので、必見である。
北極海大海戦はこの物語の中でも白眉の部分であり、ベイツ兄弟との死闘は戦争の悲劇を読者に強く感じさせる部分である。今作もまた海上自衛隊の全面的な協力のもとで撮影されており、潜水艦の迫力映像は流石である。また、戦闘部分は CG であるが、そのリアリティと迫力は世界水準であり、海外で公開しても非常に高い評価を受けるに違いない。国会や首相官邸も本物を使って撮影されており、とにかく映像のクォリティは非常に高い。
物語は北極海大海戦のみで終わらず、その後の日本の総選挙からアメリカ政府との交渉、更に国連に向かうやまとの姿まで描かれる。ニューヨーク沖では、アップトリム 50 という急上昇によって信じ難い姿を見せてくれるやまとの操艦に非常に魅了される。素晴らしい見せ場の連続は非常に見応えがあった。
大沢たかおは前作に続いてプロデューサーも兼任しており、まさに海江田元首そのものを体現していた。ほぼ司令所に立ち尽くしているシーンのみであり、役者としての動きが封じられた状況であの存在感は素晴らしいものだった。やまとや自衛艦の乗組員の面々も配役が豪華で、前作から変わらず有能さを感じさせてくれている。政府関係者と共に人間ドラマの部分でも弛緩なく見せてくれていて好ましかった。
劇中で流れたモーツァルト最晩年の「アヴェ ヴェルム コルプス」やストラヴィンスキーの「春の祭典」はシーンによく合っていて、絶妙な選曲だと思ったが、オリジナル音楽の出来だけは満足とは程遠いものだった。「相棒」シリーズを手がけている作曲家の劇伴は迫力や緊張感が不足しており、明らかに映像の足を引っ張っていた。エンディングで物語に何の関係もない歌謡曲を垂れ流されたのも神経を逆撫でするだけだった。なんであんな出来の悪い歌を流して映画全体の印象を悪くするのか、全く真意を解しかねた。次回作では絶対にやめて頂きたい。
原作を尊重した演出は見事であり、その一方で、原作になかったベイツ兄弟の子供の頃の回想映像は、失われたもののかけがえなさを問いかけていて胸が打たれた。潜水艦の閉塞性は映画館との相性が良く、昔から「潜水艦映画に外れなし」と言われて来た。本作もまたその例を加えることに貢献した素晴らしい傑作で、映画館で観るべき作品である。
(映像5+脚本5+役者5+音楽3+演出5)×4= 92 点。
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